2022年11月8日火曜日

真・ジャングルキャンピング、その5. 宿る(c) ロングステイへ(後編) ―The Real Jungle Camping, part 5. Lodging (c) for Long stay (latter vol.)

土台ができたなら、いよいよ風雨を防ぐバリアを張り巡らせて、外界から身を守る居住空間を作り上げていく。

前編では、高床の梁(はり)まで完成させている。

そこに、今風に言うところのフローリングを施すのだが、その製作過程が、私は日本では見たことのない目から鱗のやり方だった。

まず、伐り集めておいた竹の幹のまっすぐな部分を床の長さに合わせて切り揃え、両端がほぼ同じ太さの円柱状にしていく。

竹の円柱が十分に揃ったなら、その表面に、繊維の流れに沿って細かい傷を付けていく。

円柱を足で踏みつけ、右に左に転がしながら上から下まで全面全周を傷つける。踏みつけた足の下では、グジャリグジャリと竹が潰れていって一見乱暴に見えるが、それでいいのだ。

バラバラにちぎれない程度に全面に傷が付いたなら、今度は、端から深く刃を入れて、もう一方の端まで一気に切り裂く。

ここで注意しなければいけないのは、決して真っ二つにはしないということ。

最初の刃を入れるのは円周の縁の一点で、そこから、ウナギを包丁でかっ捌くかのように裂き通すのだ。

すると、事前に傷を付けておいたことにより、円柱状だった竹が見事に細長いマット状に変貌する。

平面であればあるほどよく、もっと均したほうがいいと見るや、追い打ちをかけて傷付ける。

この竹マットを梁の上に敷き詰めて、高床のフローリングとするのだ。

言うまでもなく、竹の表面(外面)だった側を上向きにして、直接体が当たる床面にしたほうがよりよい。

割れた節(ふし)の内側は、八つ裂きになった突起が残ったままで下向きになるのだが、醜い部分を裏に隠すという意味ではない。

あえて削り取って強度を落とす必要はないし、むしろ、梁の間に突起が収まってくれているほうが、ズレの防止にもなるだろう。

平らな面として竹を利用する際に、日本では、まずは幹を真っ二つや四等分や八等分に分割しておいて、それから再度集成して結束するのが一般的で、まさに竹を割ったような日本人らしくはあるが、ここで紹介したような、決して割らずに平らに延べる方法とか、テントの梁として竹竿を切断せずに折り曲げる方法などは、日本では見かけた記憶がない。

http://onishingo.blogspot.com/2022/10/3-the-real-jungle-camping-part-3.html

日本人は、円筒形のウナギやアナゴの胴を一線に切り裂けば、背開きにせよ腹開きにせよ平らな短冊状になることは知っていたが、山の竹に対しては、その発想が浮かばなかったのかもしれない。

床ができたなら、今度は壁を作ろう。

大きく開いた柱と柱の間には、竹竿を桁(けた)として渡して四角い間取りを固定しておく。壁を立てるには、上中下と三段に桁が渡っていれば用は足りる。

壁の素材には、フローリングの作り方と同じ要領で、短いバージョンの竹マットを作っていく。

量産した竹マットを三本の桁に挟み込むように立てて、隙間なく詰めていけば壁の完成だ。

もたれかかるようなことを想定した壁ではないが、やはり、割れた節の突起が残っている面は外に向け、スムーズな幹の表面を屋内に向けるのがふつうである。

あとは、雨露を防ぐ要、屋根の製作が残っている。

建屋の幅に見合った十分な長さに切った竹の円柱をたっぷりと揃えたなら、ちょうど二等分になるように断面の円の直径のラインを見極めて刃を入れ、一気にナタを押し込んでパカッと割る。

今度こそ日本人もすっきりの真っ二つの技の連発連打だ。

半分ずつになった半円柱の節の内側には、羽根状の仕切りが砕けずに残ったままだが、竹マットとは違って、ここではそれを取り除く。

日本には、竹の節をはつり落とすための細身の手鍬のような専用の道具があるが、ミャンマーの森人たちは、道具を変えることなく同じ大ナタを使う。

平らな節の仕切りに対して直角に薄い刃を打ち込むのだが、なぜかそれで、仕切り面が簡単に一掃されてしまう。

これで、そうめん流しもできそうな雨樋状のハーフパイプになる。

後々の座りをよくするためか、外面の中央線は、軽く平面にしておく。

そのハーフ竹パイプたちを、上向き下向き上向きと交互に重ねていけば、波打つトタン板のような形になり、継ぎ目の隙間は互いのパイプが塞ぎ合っている。

頭上高く次々に重ねていけば、空は覆い隠されていき、床全体を覆って余りあるほどに広がったなら、屋根の完成となる。

屋根は、一見、両側に緩く傾斜させた切妻型だが、二つの傾斜はてっぺんがくっついておらず、二枚の翼のように分かれている。

この左右の屋根は、あえて高さをずらせており、上側のてっぺんが下側のてっぺんに覆い被さっていて、雨水が室内に落ちてこないようにしている。

空から屋根に落ちてきた雨水は、ツルツルの凸側パイプから雨樋状の凹側パイプに導かれ、そうめんのように流れ下って軒先に弾き飛ばされる。

もし、虫食い穴からでも雨漏りがしてきたなら、そこのハーフパイプだけを新しいものに差し替えればいいというわけだ。

ここまで、ゾウ使いの作業キャンプ作りの工程を見てきたが、これらの技術は、竹の多い落葉混交林地帯で生み出されたのではなかろうかと私は推測しており、ミャンマーに住まれているのと同じカイン(カレン)族やシャン族などがいるタイなどでも、同様にやっている(いた?)はずだ。

ミャンマーの使役ゾウとゾウ使いたちは択伐のための要員で、一部の樹木を伐採搬出しつつも森は残すため、毎年のように現場は移動し、国の広域な伐採計画に対応して別の山地に異動になることもある。

そのため、一つの班に複数の民族が混在していることは珍しくなく、それぞれの民族の得意技が結集する独特の集団となっている。

まるで、生きた民族文化博物館のごとき、開かれた共同体なのである。

http://onishingo.blogspot.com/2013/02/ideal-community_8.html

ここまでに使った道具は、柱を立てる穴を掘るための縦掘り式の鍬と各自が持っている大ぶりのナタのみ。

特に先が広がっているタイプのナタは、穴掘りにも十分に使える。鍬よりもしんどくはあるが。

鍬もナタも、売られているのは鉄の部分だけで、柄は、自分の手に合わせて自作するのがミャンマーの森人流だ。

ここまでに使った資材は、数本の細い生木と大量の竹で、釘もネジもワイヤーも使っていない。

バンブーハウスとでも呼びたいこのスタイルの住み家には、これまで何度お世話になったことか。軽く三桁は泊めてもらっているだろう。

冬の隙間風は身に染みるが、竹竿の梁に支えられた竹マットの床の弾力は絶妙で、畳よりも柔軟でスポンジマットレスよりも張りがあり、私にとっては、硬めのスプリングが効いた高級ベッドに匹敵するような寝そべりがいのある床だった。

よく、ヨーロッパは石の文化で日本は木の文化だと言われるが、それならば、ミャンマーは竹の文化だろうと私は感じている。加工技術も利用方法も、バラエティーがハンパない。

やっと長期滞在型キャンプの基本形をご披露することができたが、彼らからすれば、この段階ではまだ、いわゆる母屋をチャチャッと建てたに過ぎない。

増築や装飾や補修や別バージョンの施工など、根城の拡充、暮しの充実は、まだまだこれからなのだ。(つづく)

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