前編では、高床の梁(はり)まで完成させている。
そこに、今風に言うところのフローリングを施すのだが、その製作過程が、私は日本では見たことのない目から鱗のやり方だった。
まず、伐り集めておいた竹の幹のまっすぐな部分を床の長さに合わせて切り揃え、両端がほぼ同じ太さの円柱状にしていく。
円柱を足で踏みつけ、右に左に転がしながら上から下まで全面全周を傷つける。踏みつけた足の下では、グジャリグジャリと竹が潰れていって一見乱暴に見えるが、それでいいのだ。
最初の刃を入れるのは円周の縁の一点で、そこから、ウナギを包丁でかっ捌くかのように裂き通すのだ。
平面であればあるほどよく、もっと均したほうがいいと見るや、追い打ちをかけて傷付ける。
あえて削り取って強度を落とす必要はないし、むしろ、梁の間に突起が収まってくれているほうが、ズレの防止にもなるだろう。
http://onishingo.blogspot.com/2022/10/3-the-real-jungle-camping-part-3.html
日本人は、円筒形のウナギやアナゴの胴を一線に切り裂けば、背開きにせよ腹開きにせよ平らな短冊状になることは知っていたが、山の竹に対しては、その発想が浮かばなかったのかもしれない。
大きく開いた柱と柱の間には、竹竿を桁(けた)として渡して四角い間取りを固定しておく。壁を立てるには、上中下と三段に桁が渡っていれば用は足りる。
もたれかかるようなことを想定した壁ではないが、やはり、割れた節の突起が残っている面は外に向け、スムーズな幹の表面を屋内に向けるのがふつうである。
建屋の幅に見合った十分な長さに切った竹の円柱をたっぷりと揃えたなら、ちょうど二等分になるように断面の円の直径のラインを見極めて刃を入れ、一気にナタを押し込んでパカッと割る。
日本には、竹の節をはつり落とすための細身の手鍬のような専用の道具があるが、ミャンマーの森人たちは、道具を変えることなく同じ大ナタを使う。
この左右の屋根は、あえて高さをずらせており、上側のてっぺんが下側のてっぺんに覆い被さっていて、雨水が室内に落ちてこないようにしている。
もし、虫食い穴からでも雨漏りがしてきたなら、そこのハーフパイプだけを新しいものに差し替えればいいというわけだ。
ミャンマーの使役ゾウとゾウ使いたちは択伐のための要員で、一部の樹木を伐採搬出しつつも森は残すため、毎年のように現場は移動し、国の広域な伐採計画に対応して別の山地に異動になることもある。
そのため、一つの班に複数の民族が混在していることは珍しくなく、それぞれの民族の得意技が結集する独特の集団となっている。
まるで、生きた民族文化博物館のごとき、開かれた共同体なのである。
http://onishingo.blogspot.com/2013/02/ideal-community_8.html
ここまでに使った道具は、柱を立てる穴を掘るための縦掘り式の鍬と各自が持っている大ぶりのナタのみ。
特に先が広がっているタイプのナタは、穴掘りにも十分に使える。鍬よりもしんどくはあるが。
鍬もナタも、売られているのは鉄の部分だけで、柄は、自分の手に合わせて自作するのがミャンマーの森人流だ。
バンブーハウスとでも呼びたいこのスタイルの住み家には、これまで何度お世話になったことか。軽く三桁は泊めてもらっているだろう。
冬の隙間風は身に染みるが、竹竿の梁に支えられた竹マットの床の弾力は絶妙で、畳よりも柔軟でスポンジマットレスよりも張りがあり、私にとっては、硬めのスプリングが効いた高級ベッドに匹敵するような寝そべりがいのある床だった。
よく、ヨーロッパは石の文化で日本は木の文化だと言われるが、それならば、ミャンマーは竹の文化だろうと私は感じている。加工技術も利用方法も、バラエティーがハンパない。
やっと長期滞在型キャンプの基本形をご披露することができたが、彼らからすれば、この段階ではまだ、いわゆる母屋をチャチャッと建てたに過ぎない。
増築や装飾や補修や別バージョンの施工など、根城の拡充、暮しの充実は、まだまだこれからなのだ。(つづく)
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