ここでは、国有の森から木材を搬出する公務員であるゾウ使いに同行し、大ぶりの刃物一丁で何もないところから自分たちの住み家を作り上げていく様を観察させてもらおう。予め下見をして決めておいた作業キャンプ予定地に辿り着いたなら、何はさておき、まずは四方の森に分け入って健常な竹をどんどん刈り集めてくる。
同時に、班長や年配の者を中心に住み家の位置と間取りを考え、細長く割った竹の棒を地面に直接置いて、原寸の図にして確定する。形が定まったなら、柱を立てる穴を掘る。
大ナタでも穴は掘れるが、垂直掘りタイプの鍬(くわ)の頭だけを持ってきておいて、柄は現地で自作して取り付けるほうが、荷物はかさばらないし、効率よく深く掘れる。
柱には、なるべく真っすぐな太い竹を使い、立てた竹柱の周りの穴の隙間には、しっかりと土を入れ戻して固めて穴を塞いでおく。 すべての柱が立ったなら、胸の高さぐらいの位置に、ほぞ穴を空けていく。
柱は、少々斜めになっていようが何ということはないが、それぞれの柱の穴の高さが揃っているかバラついているかで、後々の住み心地、寝心地が違ってくる。
次に、柱に空けた穴に短い棒を突き刺すのだが、この棒には、なるべく硬い生木を使うのがよりよい。
もし竹を使うのなら、内部まで芯が詰まっていて空洞にならない特殊な種類の竹を選ぶ。
竹柱は列状に立てており、ほぞ穴を貫通させたそれぞれの生木を台座にして、細めの竹竿二本を列ごとに渡して竹柱を挟み込み、各々の列を固定する。
作業は手分けして進められ、組み上げにいそしむ傍らでは、別の役割を分担した者が大事な資材の生産に取りかかっている。
まず、竹の幹を1メートルあまりに切り揃え、それを縦に割っていき、大量の細長い棒にしていく。
節の付いている内側の空洞に面したほうは、繊維質に粘りがないので切り落として、残りの繊維質の発達した外面に近い部分だけを使う。
薄くて平らなヘラ状になった竹の棒に水平に刃を入れて裂き、リボン状に剥ぎ取ったなら、それがそのまま紐として使えるのだ。
強度のある繊維層の厚みにもよるが、一本の棒から五層分ぐらいまで紐が取れる。和食の名人の真骨頂である向こうが透けて見えそうな刺し身の薄造りに匹敵するような技を、彼らは大ナタでやってのけてしまうのだった。
本格的な綱を編むのは、まだまだ先のことで、住み家の建築では、この竹紐だけで十分に用が足りる。
竹紐で縛る際、彼らは決して結ばない。
紐を対象物に巻き付けたなら、余った両端は交差させずに、巻き付けが緩まないよう接点を指でつまんでおいて、もう一方の手で両端の余分な紐をまとめてグルグルねじりあげ、どんどん締め付けていって団子状に巻き束ねていく。
我々日本人がよくやる真結び(本結び)にしてしまうと、耐えきれない荷重がかかってしまったなら結び目の部分からプッツリ切れ落ちてしまうが、このねじり込み式だと、ねじり束ねた部分に荷重が広く分散して、耐荷重の限界が上がるのかもしれない。
彼らは、いとも簡単に高速でねじり上げるが、やってみると難しく、なかなかうまくいかない。
柱を列ごとに挟み込んだ二本の竹竿を竹紐で固定したなら、住み家の、特に床の広がりのイメージがおぼろげに見えてくる。
さらに細長い竹竿を大量に集め、今度は切り落とした端っこに残した節の手前に、ほぞ穴を空けていく。柱の列(ここでは4列)を固定した各々のペアの竹竿(ここでは2本×4ペア=8本)の上に、ほぞ穴を空けた竹竿をほぼ等間隔に並べていく。ほぞ穴に薄くて細長い竹棒を通して固定し、さらに下からも追加の竹竿を
直角にあてがって竹紐で固定し、ズレないように安定させていく。
片側の一辺には、上からも竹竿を渡して、等間隔に並べた大量の竹竿を上下から挟み、しっかり固定する。これで、床を下から支える梁(はり)まで完成した。そう、造り上げようとしているのは高床式の家で、これは、その行程の前段なのだ。(つづく)
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