2022年10月3日月曜日

真・ジャングルキャンピング、その3. 宿る(a) ショートステイで ―The Real Jungle Camping, part 3. Lodging (a) for Short stay

目的地に着いたなら、まずは居住空間を確保しなければならない。

特に雨期は、天蓋(てんがい)の覆いなくして就寝時間を迎えると、これから始まる滞在を前に、体も物品も大きなダメージをくらう恐れがある。

野外での根城の定番として思い浮かぶのは、何と言ってもテントで、ヤンゴンでも新品を揃えたアウトドアショップができており、友人である店長のジェシさん(Mr. Jesh)が、厳しいご時世の中、なんとかがんばっている。

ほんの10年前にはあり得なかった夢のようなショップだが、まだまだアウトドアスポーツは浸透しておらず、私の知る限り、専門店はこの一店(Backpacks 4U)のみ。

http://www.yangondirectory.com/listing/backpacks-4u-l00272074.html

https://www.instagram.com/backpacks_4u/?hl=ja

https://backpacks-4u.business.site/

https://www.backtonaturemyanmar.com/

jesh@backtonaturemyanmar.com

それでも、ミャンマーの山中には、アウトドアの達人と呼べる森人たちが、あちらこちらで暮している。

当然、野営することも多々あるわけで、テントなど見たことも使ったこともなくとも、雨露(あまつゆ)をしのいで寝泊まりする独自の術は持っているということだ。

私も最小級のテントは持参しながらも、彼らの作る仮住まいのほうが快適なので、結局そちらでお世話になるというケースが多かった。

現在は、全土が非常事態で、故郷を追われた方々も大勢おり、みなさん必死で我が身と家族を守っておられるが、本来は、自然に順応した日々の営みをさり気なく重ね、山河に抱かれた集落には子どもたちの笑い声が響き渡っていた。

ビロウ属が自生する北部の常緑広葉樹林
A northern evergreen forest where Livistona sp. grows
私がお世話になった仮住まいの中でも、最もシンプルで最も魅力的だったのが、ヤシの一種、ビロウの仲間の巨大な葉を使った100%天然素材のテントだった。

ビロウ属Livistona spp.は、特に北部や高地のやや冷涼で湿潤な常緑林に多く自生し、これが豊富な森では、天蓋の材料には不自由しない。

乾燥地に植栽して樹液からヤシ砂糖(jaggery)を作るオウギヤシ(ビルマ語名:タン, Borassus flabellifer)に似ているため、タウンタン(山のオウギヤシ)とか、トータン(森のオウギヤシ)とか呼ばれ、トータンテントを作ると英緬語ミックスで初めて言われたときは、トタンでテントを作るのかと日本語で誤解してしまった。


天気の安定しているときなら、横長に渡した棒に立てかけるだけでも夜露は十分にしのげるが、葉軸ががんじょうなので葉っぱを自立させることもでき、ドーム型テントのような一戸建てにもなる。雨が多ければ、葉っぱの枚数を増やして重ねればいい。

ビロウ属の葉は、一般家屋の屋根を葺(ふ)くのにも使われるため、竹や籐と同様に、この葉の収穫も生計を立てるための生業の一つとなっている。

収穫したビロウ属の葉の束
Bundles of collected palm leaves (Livistona sp.)
ビロウ属の葉で葺いた屋根の下面
An undersurface of the roof with palm leaves

より大人数向けの長屋を作る場合は、竹がメインの資材となる。

ミャンマーの森では竹を探すのに苦労はしないが、乾期に多くの樹種が一斉に葉っぱを落とす落葉混交林というタイプの森には特に多く、常緑林でも、サイクロンによる倒木の多い西のラカイン(アラカン)山脈には例外的に多い。

http://onishingo.blogspot.com/2018/10/5-exploring-myanmar-nature-part-5.html

程よく平坦なキャンプサイトを見つけて間取りを決めたなら、まずは柱を立てる。

竹でも、細めで真っすぐな木の幹でも枝でもいいが、柱のてっぺんは二股にしたいので、うまく枝分かれした部分を含めて伐り取る。

両端二本の柱を立てたなら、両方の先端の二股に梁(はり)を渡す。

その梁に桟(さん)を立てかけて屋根を形作るのだが、桟の長さと角度で室内空間の形と容積が決まる。

工場の屋根のように片側のみに傾けた形がシンプルで基本形だが、庇(ひさし)で前面を覆うようにしたければ、前方にやや低い柱をもう二本立てて、そこにも梁を渡し、元の梁とで段違い平行棒の状態にする。

そして、竹を長めに伐り集めて、幹の途中に切込みを入れて「へ」の字に折り曲げ、短いほうの直線の先を前方の梁にもたせかければ、庇が覆うような三角屋根にできる。

柱と梁と桟を固定するための紐も、竹から作り出せる。

細く割った竹の棒を繊維に沿って薄く剥がしたら、粘りのあるリボン状の紐として使えるのだ。


ゾウ使いや森林官の手にかかると、鉈(なた)一丁で竹棒を何層にも薄くさばいて、一片の竹棒から四枚も五枚も平紐が生み出される。

様々な紐作りの極意については、のちのちの書き込みで、たっぷりと。


屋根の材料には、ビロウ属がない森でも、野生のバナナやサトイモ類など、大きな葉っぱは他にもあるし、細かい葉っぱの密生した枝を縛り付けていくだけでも、そこそこの雨露はしのげる。

けれども、一人ずつ個室を作るわけではないので、全員分の寝床を覆えるだけの幕を一枚持っていけば事足りる。ブルーシートなら、かなりの田舎町でもロールで売っていて、好きな長さに切り売りしてくれる。


強風にも捲れないようにシートや葉っぱを竹紐で固定したなら、竹長屋の完成だ。


天気の安定しているときなら、さらに薄い透明ビニールシートを張った三角テントでも十分である。

ペグも、現地にある竹などで作ればいい。


ミャンマーの森に入る際、シートは忘れても絶対に忘れたくないのが蚊帳(かや)だ。

密閉できる市販のテントを持参するなら問題ないが、ビロウハウスや竹長屋で寝る際の一番の外敵は、最も多くの人類を殺してきた生物、蚊、なのである。

マラリアを媒介するハマダラカは夕方から活動を開始するので、夜間に蚊に刺されると命取りになりかねないのだ。

蚊帳というと、部屋全体に張り巡らせる印象があるが、ミャンマーの寝具屋では、一人用の吊り下げ式の蚊帳がふつうに売られている。

たっぷりの裾が床にたゆむように垂らしておけば、地上を這う小動物の侵入も防げるし、同居人が真横で寝てても、ほんの網一枚で仕切っているだけで個室感に包まれるものだ。


最近は、折りたたみ式のドーム型の蚊帳もあり、ラフな運搬に耐えられそうなら持ち込んでもいいが、人数分揃えるとなると、かなりかさばりそうだ。

また、蚊帳は使わずに蚊取り線香や虫除けスプレーで対応する人もいる。そこは好き好きだし、ハンモックのように蚊帳で覆えない場合もある。



ところで、英語本来の「camp」の意味は、日本語の「キャンプ」よりもはるかに幅広く、一泊だけのテント泊もcampなら、日本国が抱える大きな社会問題となっている沖縄に点在する米軍施設の広大な敷地も、「camp◯◯」と名付けられている。

ビルマ語では「サカン」という言葉がキャンプに当たり、やはり、日本語よりも幅広く使われる。

例えばゾウ使いの場合、彼らが住所としている山里の集落がベースキャンプと呼ばれていて小学校もあったりするが、彼らの仕事場は、その先の住所のない山地帯にあり、近隣国のように、里で使役ゾウと出くわすようなことはほとんどない。

引退したゾウ、ケガをしたゾウ、母子のゾウなどの面倒を見るための療養キャンプや、若いゾウを使役ゾウに仕立てるための訓練キャンプなどは、森に囲まれた山中にあり、担当のゾウ使いたちは半恒久的な集落を作っている。

そして、本業の伐採搬出をする現場は、さらにその先で、班ごとに作業キャンプを開いている。いわゆる飯場で、クーデター前までは、森林地帯のあちこちに散らばっていた。

森を残しつつ一部の樹木のみを伐り出す持続可能な択伐方式なので、現場は毎年移動するが、少なくとも伐採解禁期間の八ヶ月間は、一ヶ所のキャンプにとどまってゾウとの共同作業に出かけている。

何ヶ月ともなると、大きな葉っぱや細い竹で仕立てた仮住まいで過ごすには、さすがに長すぎる。

かと言って、車も通わぬ山奥に大工さんは来てくれないし、重機も入れない。

さあ、どうする…

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