特に雨期は、天蓋(てんがい)の覆いなくして就寝時間を迎えると、これから始まる滞在を前に、体も物品も大きなダメージをくらう恐れがある。
野外での根城の定番として思い浮かぶのは、何と言ってもテントで、ヤンゴンでも新品を揃えたアウトドアショップができており、友人である店長のジェシさん(Mr. Jesh)が、厳しいご時世の中、なんとかがんばっている。
ほんの10年前にはあり得なかった夢のようなショップだが、まだまだアウトドアスポーツは浸透しておらず、私の知る限り、専門店はこの一店(Backpacks 4U)のみ。
http://www.yangondirectory.com/listing/backpacks-4u-l00272074.html
https://www.instagram.com/backpacks_4u/?hl=ja
https://backpacks-4u.business.site/
https://www.backtonaturemyanmar.com/
それでも、ミャンマーの山中には、アウトドアの達人と呼べる森人たちが、あちらこちらで暮している。
当然、野営することも多々あるわけで、テントなど見たことも使ったこともなくとも、雨露(あまつゆ)をしのいで寝泊まりする独自の術は持っているということだ。
私も最小級のテントは持参しながらも、彼らの作る仮住まいのほうが快適なので、結局そちらでお世話になるというケースが多かった。
現在は、全土が非常事態で、故郷を追われた方々も大勢おり、みなさん必死で我が身と家族を守っておられるが、本来は、自然に順応した日々の営みをさり気なく重ね、山河に抱かれた集落には子どもたちの笑い声が響き渡っていた。
ビロウ属が自生する北部の常緑広葉樹林 A northern evergreen forest where Livistona sp. grows |
収穫したビロウ属の葉の束 Bundles of collected palm leaves (Livistona sp.) |
ビロウ属の葉で葺いた屋根の下面 An undersurface of the roof with palm leaves |
より大人数向けの長屋を作る場合は、竹がメインの資材となる。
ミャンマーの森では竹を探すのに苦労はしないが、乾期に多くの樹種が一斉に葉っぱを落とす落葉混交林というタイプの森には特に多く、常緑林でも、サイクロンによる倒木の多い西のラカイン(アラカン)山脈には例外的に多い。
http://onishingo.blogspot.com/2018/10/5-exploring-myanmar-nature-part-5.html
程よく平坦なキャンプサイトを見つけて間取りを決めたなら、まずは柱を立てる。
竹でも、細めで真っすぐな木の幹でも枝でもいいが、柱のてっぺんは二股にしたいので、うまく枝分かれした部分を含めて伐り取る。
両端二本の柱を立てたなら、両方の先端の二股に梁(はり)を渡す。
工場の屋根のように片側のみに傾けた形がシンプルで基本形だが、庇(ひさし)で前面を覆うようにしたければ、前方にやや低い柱をもう二本立てて、そこにも梁を渡し、元の梁とで段違い平行棒の状態にする。
そして、竹を長めに伐り集めて、幹の途中に切込みを入れて「へ」の字に折り曲げ、短いほうの直線の先を前方の梁にもたせかければ、庇が覆うような三角屋根にできる。
細く割った竹の棒を繊維に沿って薄く剥がしたら、粘りのあるリボン状の紐として使えるのだ。
ゾウ使いや森林官の手にかかると、鉈(なた)一丁で竹棒を何層にも薄くさばいて、一片の竹棒から四枚も五枚も平紐が生み出される。
様々な紐作りの極意については、のちのちの書き込みで、たっぷりと。
けれども、一人ずつ個室を作るわけではないので、全員分の寝床を覆えるだけの幕を一枚持っていけば事足りる。ブルーシートなら、かなりの田舎町でもロールで売っていて、好きな長さに切り売りしてくれる。
密閉できる市販のテントを持参するなら問題ないが、ビロウハウスや竹長屋で寝る際の一番の外敵は、最も多くの人類を殺してきた生物、蚊、なのである。
マラリアを媒介するハマダラカは夕方から活動を開始するので、夜間に蚊に刺されると命取りになりかねないのだ。
蚊帳というと、部屋全体に張り巡らせる印象があるが、ミャンマーの寝具屋では、一人用の吊り下げ式の蚊帳がふつうに売られている。
たっぷりの裾が床にたゆむように垂らしておけば、地上を這う小動物の侵入も防げるし、同居人が真横で寝てても、ほんの網一枚で仕切っているだけで個室感に包まれるものだ。
また、蚊帳は使わずに蚊取り線香や虫除けスプレーで対応する人もいる。そこは好き好きだし、ハンモックのように蚊帳で覆えない場合もある。
ビルマ語では「サカン」という言葉がキャンプに当たり、やはり、日本語よりも幅広く使われる。
例えばゾウ使いの場合、彼らが住所としている山里の集落がベースキャンプと呼ばれていて小学校もあったりするが、彼らの仕事場は、その先の住所のない山地帯にあり、近隣国のように、里で使役ゾウと出くわすようなことはほとんどない。
引退したゾウ、ケガをしたゾウ、母子のゾウなどの面倒を見るための療養キャンプや、若いゾウを使役ゾウに仕立てるための訓練キャンプなどは、森に囲まれた山中にあり、担当のゾウ使いたちは半恒久的な集落を作っている。
そして、本業の伐採搬出をする現場は、さらにその先で、班ごとに作業キャンプを開いている。いわゆる飯場で、クーデター前までは、森林地帯のあちこちに散らばっていた。
森を残しつつ一部の樹木のみを伐り出す持続可能な択伐方式なので、現場は毎年移動するが、少なくとも伐採解禁期間の八ヶ月間は、一ヶ所のキャンプにとどまってゾウとの共同作業に出かけている。
何ヶ月ともなると、大きな葉っぱや細い竹で仕立てた仮住まいで過ごすには、さすがに長すぎる。
かと言って、車も通わぬ山奥に大工さんは来てくれないし、重機も入れない。
さあ、どうする…
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