森にある植物のみで手作りしたロープ各種 Various ropes made of natural plants in forest |
今でも多くの人がその技術を持っており、あえてナイロン製ではなく天然素材のロープを使うべき場面もある。
植物の繊維は、たいてい長くて丈夫なので、細長い草でも急斜面を登る時に命綱代わりに掴まったりすることもあるし、すこぶる長い蔓植物だと、そのままでもロープの代用になる。
そして、捻(ねじ)ったり束ねたりするごとに強度は増していく。本シリーズの「その4.」で紹介した竹を薄く剥がしたリボンも、束ねればもちろん、より大きな荷重に持ちこたえるようになる。
http://onishingo.blogspot.com/2022/10/4-b-real-jungle-camping-part-4-lodging.html
ただ、竹の場合、硬さが残るので、捻ることには限界があり、精巧なロープ作りには向いていない。
ロープの素材として最も使われているのが、ビルマ語でショー(Shaw)と呼ぶ木である。それは、Sterculia villosaを初めとするアオイ科(旧アオギリ科)ピンポンノキ属(Sterculia spp)の数種類で、地域ごとに自生している種を使っていると思われる。
ちょっと待て!と。硬さにおいては、木材は竹よりも硬くて融通が利かないはずじゃがと。
そこで、ああ、木の皮なら竹よりも柔らかいだろうから、それなら納得だと。
そう思い込んでいたまま、実際に製綱現場を見てみたら、まったく予想外の展開となった。
まず、伐採してきたショーピン(ショーの木)の皮を剥がすには剥がす。けれども、それはそのままほったらかし。皮は使わないのだ。
木の幹を切断した切り株や丸太の断面を見ると、一番外側の木の皮を含む薄い部分が、理科で習った師部という部分で、葉っぱで光合成して作った栄養分の通り道になっている。その内側に、形成層という細胞分裂して成長する層が薄く一周している。そして、その内側すべてを木部と言って、いわゆる木材の部分に当たる。
その木材の部分は、外側に色の薄い材の部分が輪っか状にあって、その内側全体の円形の部分は、色がより濃くなる傾向があり、樹種によっては赤かったりする。
輪っか状の白っぽい材を日本の製材業界では白太と呼んで林学用語では辺材と呼び、内側の赤っぽい円形の材を赤身、林学では心材と呼んでいる。辺材の部分は、根っこから吸い上げた水や養分の通り道になっていて、幹が外向きに拡大して太くなるに連れ、内側に蓄積していく辺材は通り道としての役目を終え、硬化して無生物的な心材に変化し、樹体を支える構造物的な役割を担うようになる。朽ち果てるまで。
このうち、まだ辺材の状態にある部分は、心材ほど硬くはなく、とりわけショーの木では、竹など比べ物にならないくらい柔らかいのである。しかも、簡単にはちぎれない。
このショーの辺材を、極力薄く何層も何層も剥がすのだ。
こうして薄く剥がしたショーの辺材のリボンが、あらゆる用途に使われるロープのもとになる。
まず最も簡単に強度を上げる方法が、三本を一セットとして編む方法。特に女性なら多くの人が姉妹や友だちの髪の毛で体験済みの三つ編みだ。薄くて平らなリボンの状態のままで編み込んでも、ちょっとした平紐のようになり、ショルダーベルトなどに使える。そして、いよいよ用途に応じて細いのから太いのまで、様々な直径の丸紐を作り出していくのだが、天然素材のショーの辺材から撚り合わせていくので、紐とかロープとか言うよりも、縄とか綱と言ったイメージである。
薄くてヒラヒラしているものでも、タオルを絞るように捻じれば捻るほど円筒状になって強度が増していく。けれども布と違って硬さの残る植物繊維は、そのままでは元のまっすぐで平らな状態に戻ろうとするので、どうにかして捻ったままの状態を維持しなければならない。
そこで、最も基本的な捻り縄の安定型、完成型が、同じ方向に捻ったものを二本準備して、捻ったのとは逆の回転で二本を絡ませながら撚(よ)り上げていく方法である。
逆の回転を加えることで、植物繊維が見事に同じ縦方向に揃ってまっすぐになり安定する。
かつて日本では、農家の人が稲藁(いなわら)を使って二本撚りの縄を作っていて、縄を綯(な)うと言っていた。この、二本別々の繊維を独立して捻りながら逆方向に撚る作業を、両掌の中で同時に高速でやっていたのだ。今やこの名人芸をできる人は、農家の中でもごく少なくなっているだろうが。
ミャンマーの森人もまた、この、“二本捻りの逆撚り”をやるのだが、素材はもちろんショーの辺材で、使うのは両掌ではなく、片掌と、もう一つは、なんと太腿である。細い紐を綯う際に、特によくやる。これまた高速の名人芸だ。
脚が毛深いと難しそうだが、逆に、再々太腿で綯っていると自然に脱毛されてそうだ。これぞロープ、これぞ綱、というのが、さらに一本増やして三本で撚り上げる「三つ打ちロープ」と製綱業界で呼ばれるものである。
5メートルの綱を作ろうと思っても、5メートルの藁があるわけではなく、当然、短い藁を継ぎ足し継ぎ足し伸ばしていくことになる。
ショーの場合、10メートルを越える大木もありはするが、わざわざリボンを長くする必要はなく、やはり、短いものを継ぎ足していく。
綱になる三本のそれぞれの繊維の軸を製綱業界ではストランドと言うそうだが、三本別々に準備しなければならないかと言うと、そうではない。
5メートルの綱を作りたければ、継ぎ足し継ぎ足し同じ方向に捻っていく一本の繊維の軸を、その三倍の15メートル以上の長さに伸ばしていけばいいのである。
実際には、後で撚り合わせる分、短くなるので、かなりのプラスアルファを加えた長さにしておく。そして、長ーい一方向捻りの一本を、三本撚りにした太ーい一本に束ね上げていくのだが、三等分にカットして三つ編みにするわけではない。
まずは、全体の三分の二の長さを使って稲藁の縄と同じく二本撚りの綱に束ねていく。
その二本撚りの縄に、余っている一本分を絡めていって撚り合わせ、最終的に三本撚りの三つ打ちロープにするのである。元となる繊維の軸の太さを調節することで、綱の太さもどのようにでもできる。
町へ行けば、同じような長さと太さのナイロン製のロープを買うことはできるだろう。もしかしたら、強度や耐久性はそっちのほうが上かもしれない。
けれども、植物繊維で撚った綱のほうが優れている点もある。
ナイロンのロープは、何度も擦れると摩擦熱を帯びてくる。例えば、使役ゾウが身に着ける装具や訓練の時に体を固定するための綱などの場合、激しい動きが続くと、ナイロンロープでは摩擦熱で火傷を負ってしまうかもしれない。
けれども、ショーで撚った綱なら、激しく擦れても、なかなか熱くならないのだそうだ。
ゾウや牛や水牛や馬などの使役動物の体に直接当たるものは、植物繊維や本皮などの天然素材で作ったもののほうが、彼らにとってははるかに優しいのである。
植物繊維の向きがまっすぐに揃っている Plant fibers are oriented in a straight line. |
0 件のコメント:
コメントを投稿