2021年4月5日月曜日

騒乱と山河 ―Trouble and Nature

クーデターについての思いは直近の二編で書いたが、私の考え云々以前に、友人からもマスコミからも、この度のクーデターを肯定する声などまったく聞こえてこない。

http://onishingo.blogspot.com/2021/02/6-world-war-against-covid-19-part-6-if.html

http://onishingo.blogspot.com/2021/03/where-is-your-mind.html

そんな中、327日、ミャンマーの国軍記念日の式典が行われ、ロシア、中国、インド、パキスタン、バングラデシュ、ベトナム、ラオス、タイは、代表者を出席させた。

この八つの国は、丸腰の自国民を狙撃することを実質認めたことになる。それぞれの国軍の軍規はどうなっているのか?恥ずかしくないのか?

この狙撃をよしとしない欧米諸国は、当然ながらミャンマー国軍への制裁を課す一方、日本へは、国軍とのパイプも持っており対話もできる国として期待をしている。

さらに、現在の駐ミャンマー日本国大使は、おそらく各国の大使の中で最もコミュニケーション能力が高く、通訳なしでビルマ語での交渉が澱みなくできる稀有な存在の方だ。

日本政府としては、スーチーさんらの解放やODAの今後などいろいろな課題について協議したいところだろうが、それら政治的な問題は後。

こんな状況においても飽くまでビジネスライクに損得勘定でしか対処しないロシアや中国とは日本は違うんだと。あえて政治的問題には触れず、まずは人道上の大問題、民衆への狙撃を止めることだけに一点集中して交渉に臨んでほしい。

民衆を狙撃しないことが近代国家の証しですよと。まずは、その状況に戻ってから政治経済の話をしようじゃないですかと。

前近代的な武士道や騎士道でも、丸腰の相手を攻撃することは恥。許しがたい行為なのだから。

我々も、少なくとも私が今一番望んでいるのは、不正云々経済云々ではなく、一にも二にも、まずは、これ以上罪のない犠牲者を出さないこと。

ミャンマーの人々も世界も、そこに期待しているはずで、これまで、新型コロナ対策では何の世界貢献もできていない日本政府が、もし、民衆への狙撃停止の確約を取り付けることができたならば、今度こそ世界中の尊敬を集めるだろう。

その前に、直近の課題として、ミャンマーでのデモの映像を見た今の日本人なら、どうしても不安に駆られる点は、「密になっている」ということではないだろうか。

クーデター以前の1月まで、ミャンマーは順調に感染者数を減らしつつあった。

それが、21日以降、さらに急降下し、現在は、以下のグラフの通り、ほぼゼロに近い横ばい状態となっている。

ミャンマーでの新型コロナウィルス感染者数の推移(~4月3日)from Google service page

これは、現在全権の掌握を宣言している軍部のコロナ政策が成功しているということでは決してなく、医療機関が機能不全に陥っていて正しい統計が取れていないと解釈すべきだろう。今の状況では、感染者は増加しているに違いない。

一連のデモの報道では、公務員のCDMCivil Disobedience Movement)、「市民の不服従運動」ということが大きく取り上げられている。

以前の軍事政権下では、日本人を含む外国の人たちの中には、ミャンマーの役所イコール軍部、公務員イコール軍人であろうと思っていた人も多かったが、それは誤解で、公的医療機関なら医学を修めた者、工業省なら工学を修めた者、森林局なら森林学や生態学を修めた者たちが中心になって編成された組織で、むしろ、専門性を持たない軍部からの無理難題にいかに対抗するかに苦慮していた側が役所であり公務員であった。

軍部からは一方通行の出向者を各役所に送り込んではいたが、民主化以降、その影響も収まりつつあり、公務員の中には、国民への奉仕者であるという意識も高まりつつあったはずで、この度の軍部への不服従も当然のことと言える。

CDMは、極めて平和的な当然の権利で有効な反対意思表示の方法ではあるが、大きなジレンマも抱えていると私は思っている。上記の新型コロナの統計がいい例だろう。

医師が職務を放棄したら患者が見殺しになる。畜産家が職務放棄したら家畜が死ぬ。エネルギー事業者が職務放棄したら電気が止まる。

職務放棄・職場放棄と不服従は違うと思うのだ。

もし、森林官が職務放棄したならば…

森は伐採され、野生動物は絶滅に向かう。違法伐採者や密猟者のやりたい放題になってしまい、ミャンマーの山河はたちまち無法地帯と化してしまう。

森林官の職務において極めて大きなウェイトを占めるのが、広大な山河を舞台にした彼らとの気が遠くなるような追いかけっ子で、ミャンマー森林局の歴史は違法者との抗争の歴史でもある。

かつて訪れた鬱蒼とした森が跡形もなく草むらに変貌していたり、深夜の森で遠くから響くチェーンソーの音や銃声を聞いたり、そのような経験を私は何度もしている。油断すると、森や動物が消えてしまうのは、あっと言う間のことだ。

さらに、不服従で給与が出ないとなると、これまで違法行為には手を染めてなかった全うな国民までも、お金になる天然資源を狙ってくることになるかもしれない。中でもターゲットにしやすいのが、樹木と野生動物だ。

決して遠方の他人事ではない。

森を剥ぎ取られた山々は保水力が低下するため、洪水も渇水も起こりやすくなり、土砂の流出も促して、あらゆる自然災害を誘発することになる。山河の荒廃は町場の人々の生死にも直結してくるのだ。

今はそれどころではない、おまえは弾圧の惨状を知らなすぎる、と叱られるかもしれないが、このままではこの一年間で、否、一ヶ月単位で百年単位の喪失を許してしまうかもしれない。これまた取り返しのつかない惨状になる。違法者は、軍とかNLDとかどうでもいい人たちなのだから。

森林局局長は気張ってくれているだろうが、もう手遅れかもしれない、ミャンマーの山河は…

すべての元凶が国軍なのは間違いないが、手放しでCDMを称賛する風潮に諸手を挙げて賛成することは、私はできない。

国のシステムを機能不全にして現時の全権掌握者を無力化させるには、不服従は有効な手段ではあるが、人命と国土を危険に晒すリスクと引き換えの諸刃の剣でもある。

公務員の中でも、言わば、人命のエッセンシャルワーカー、国土のエッセンシャルワーカーと呼べるような人たちは、一斉に職場を離れることは避け、管理職を中心に人員の配置を計画して組織的にCDMを実施し、不服従の意思は示しつつも、国民の生存の保証と国土の保全だけは、どうか維持してほしい。

今、大変な状況に置かれているミャンマーの人たちに対して何の救済もできないことを、大変申し訳なく思っております。

武器を持って向かってくる者に、武器を持たずに抵抗する人たちのことを、私は心から尊敬しています。

庶民の側に付く少数民族独立軍も出てきているが、どうか先制攻撃は控え、護衛に徹してほしい。

そして、軍部の中にも、国民に銃口を向ける今のやり方はおかしいと勇気を持って正しいことが言える真の戦士たちが現れることを切に願う。

亡くなられた皆様のご冥福をお祈りします。

2 件のコメント:

  1. 本当におっしゃる通りです。不服従によるデメリットも考えなければなりません。自然やその中に暮らす動物たちだけでなく、一般のミャンマー人一人一人の暮らしに必ず大きいしっぺ返し、それも回復不能のものが返ってくることを考えて欲しいです。国軍の幹部だって士官学校を出た優秀な人たちでしょうし、一般兵士も国軍の内部の不公平な扱いに日ごろ不満と不審を持っている人たち少なくないはずです。その人たちのメンタルに入り込んで訴える方法はないでしょうか。

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  2. 力強いコメント、ありがとうございます。
    とにかく、一方向からのみの視点で判断することに危うさを感じており、ちっちゃな警鐘を鳴らさせていただいている次第です。
    このまま市民の武装化、内戦化が加速すると、絵に描いたような悪夢のシナリオに陥ってしまいます。
    おっしゃるとおり、メンタル、心模様の変化が鍵になるかもですね。
    立場を越えて、皆が人間らしい心を取り戻せる方法を、まさにみんなで考えたいですね。

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