at Thamihla island
ミャンマーでは、標高(ひょうこう)の高いところを除(のぞ)いて、ほぼ一年中、蚊(か)がいる。けれども、網戸(あみど)を取り付けている家は、ごく限られている。
そこで、蚊を防(ふせ)ぐ二大必須(ひっす)アイテムなのが、蚊取り線香(せんこう)と蚊帳(かや)である。蚊取り線香は、渦巻(うずま)き型の国産品がたくさんあり、最近だとGODZILLA(ゴジラ)やJUMBO(ジャンボー)あたりが人気のブランドだ。
ゴジラの赤いパッケージには、蚊をにらみつけるかような怪獣の目のアップが描(か)かれているが、その目は、元祖(がんそ)のではなくて、トカゲのようなアメリカ版“ゴッズィーラ”をモデルにしているのが、私は、ちょっと気に食わない。それはさて置き…
蚊帳のほうは、昔、日本で使っていたような部屋全体を覆(おお)うものではなく、一人用か二人用のものを使う。一人用なら幅1メートル弱、長さ2メートル弱、高さ1メートル半ほどで、四隅(すみ)からヒモを四方に張って吊(つ)るせば、直方体(ちょくほうたい)になり、ちょうど寝床(ねどこ)を覆うようになる。
私も地方に出るときの荷物には必ず蚊帳を入れおり、木造や竹造りの家に泊(と)まるときには吊るようにしている。広間で雑魚寝(ざこね)をする際の、ささやかなプライベートルームだ。
この冬、母ウミガメが上陸するタミーラ島の宿舎(しゅくしゃ)で寝ていたときのこと、左腿(もも)の外側あたりに圧迫(あっぱく)感を覚(おぼ)えて目が覚(さ)めた。蚊帳の中には私一人のはずなのに…
at Thamihla island
見ると、一匹のネコが、たるみのある蚊帳の外からにじり寄(よ)って私の体に密着(みっちゃく)していた。私は、蹴(け)飛ばすでも蚊帳を開けて中に迎(むか)え入れるでもなく、押しつぶさないよう、ちょっとだけ気にしつつ、そのまま寝ていた。
次の晩(ばん)もその次の晩も、そのネコは薄(うす)い蚊帳の網一枚を隔(へだ)てて私に密着してきた。昼は昼とて、外から帰ってみると、やはり私の枕(まくら)や寝袋(ねぶくろ)の上でよく横になっていた。その部屋には三人の男が寝ているのになぜ…
ほぼ垂直の崖を猛烈な勢いで登る
Climbing up a steep cliff rapidly. at Thamihla island
決して温室育ちではないワイルドな彼らは、対人関係のみでなく、他者との距離感を自然に身に付けているような気がする。
at Thamihla island
昨今(さっこん)の日本では、お座敷犬(ざしきけん)やネコは室内で、外イヌは鎖(くさり)で、小鳥はカゴでと、極端(きょくたん)な管理下に置かれてペットが飼われているため、たまたま異種(いしゅ)が遭遇(そうぐう)してしまうと、たちまち一触即発(いっしょくそくはつ)のムードになってしまう。
人の食用に持ち込まれたニワトリが気になる子ネコ。カゴは二つの扇風機のカバーの再利用
Kittens facing chickens for people’s meal. A cage is made by two covers of waste electric fans. at Meinmahla island
一方、動物は放し飼いにしておくのが基本のミャンマーの田舎(いなか)では、近くて遠縁(とおえん)にある異種動物との間合(まあ)いを、それぞれの種が十分に心得(こころえ)ているように見える。
イヌはネコを見たら吠(ほ)えるもの、みたいなイメージは、どうやら育てている環境がそうさせているのであって、もっと開放(かいほう)的で雑多(ざった)な環境で広く世間(せけん)を見ながら育っている動物たちは、ちゃんと自分の立ち位置を理解するもののようである。
島では水は貴重品、人にもネコにも
Water is so valuable at island for both human and cats. at Meinmahla island
ところで、ミャンマーでも日本でも、なぜか島にはイヌよりもネコのほうが似合(にあ)っているような気がする。おそらく、島といえば魚の臭(にお)い、魚といえばネコ、という連想(れんそう)が成り立つからではないだろうか。昭和育ちの我々には、ネコといえば小判(こばん)でもキャットフードでもなく、やっぱ魚でしょ。
at Thamihla island
ちなみに、毎晩寄りそってくるネコには、私も親近(しんきん)感がちょっとは湧(わ)いてきた。ちょっとは気になり確認してみたところ、そいつは雄だった。だからどうしたということでもないのだが…
at Thamihla island
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