2011年6月2日木曜日

無敵の象星印、その1. -Unrivaled Elephant Star Brand, part 1.-

ポウパー山麓に立つ溶岩峰
Volcanic plug at the foot of Mt. Popa

“すべての道はパゴダに通じる”なんて格言(かくげん)はないが、あっても不思議ではないほど、ミャンマーでは隙(すき)あらばパゴダ(仏塔、ぶっとう)が建立(こんりゅう)されている。

もちろん、山の上なども格別(かくべつ)の建立ポイントで、有名なところでは、モン州のチャイティーヨーパゴダやマンダレー管区のポウパー(ポパ)山などがあり、日本人で訪ねた方もおられることと思う。

チャイティーヨーの参拝(さんぱい)には、何時間もかけて山腹(さんぷく)を登りきって尾根伝いに歩く昔からのルートの他、パゴダの山の麓(ふもと)まで谷沿いにトラックバスで乗り込んでから一気に登るルートもあるが、それでも標高差数百メートルは登らなければならない。

チャイティーヨー山塊からタイ国境方面を望む
Overlooking Myanmar-Thailand border side from Kyaik Hti Yoe range

ポウパー山は、仏教伝来以前から信仰(しんこう)されている精霊(せいれい)の聖地である。日本のテレビ番組では、頂上に仏教のパゴダ群が建ち並ぶ出ベソのような岩峰がポウパー山としてよく映されるが、それは、山の裾野(すその)に隆起(りゅうき)した溶岩の峰であって、ポウパー本体は、その背後にそびえる円錐(えんすい)形の山である。

ポウパー山本体(1,518m)と溶岩峰(左手前)
Mt. Popa (1,518m) & Volcanic plug (left front side)

どちらの山の様子も、「ミャンマー動物紀行‐旅日記編‐」にくわしく書いているが、里山ハイキングよりは上の、ちょっとした奥山登山の覚悟(かくご)でのぞんだほうがいいレベルの山である。

ところが、「チャイティーヨーへ行く」「ポウパーへ行く」と言うと、「それなら草履(ぞうり)で行きなさい」とアドバイスをくれる人が、ミャンマーにはけっこういる。

一つには、パゴダの敷地(しきち)内では裸足(はだし)にならなければならないので、草履のほうがぬぎやすいというのもあるが、どうやら履物(はきもの)に対する考え方が根本的(こんぽんてき)に違うようなのである。

ポウパーの外輪山と旧火口
Outer rim & crater of Mt. Popa

例えば、山からむかえに来てくれた人が、町では靴(くつ)をはいていたのに山に入れば草履になり、ますます道がけわしくなると裸足になる、なんてことがあるのだ。

たぶん、ミャンマーの人の足の裏は感度(かんど)がよく、不安定な土地の上では、足の裏で地表の状態を感じながら歩けるのだと思う。なので、より薄くて平面な草履の底のほうが地面の情報が伝わりやすく、なんなら裸足でも、ということではないだろうか。

チャイティーヨー山塊を覆ってくる雲海
A sea of clouds covering Kyaik Hti Yoe range

この冬、マングローブの島でのこと。夜も引き潮にあわせて船を出し、ワニをさがしていたのだが、たいていは草履ばきで乗船(じょうせん)していた。

大物に出会えない日々が続いたため、ある夜、いいのが撮(と)れなければホタルの大群でも撮るかと、陸に上がることも想定(そうてい)してトレッキングシューズをはいて乗り込むことにした。

小船に向かう桟橋(さんばし)は下り傾斜(けいしゃ)で、風呂場のスノコのように横板が張られているのだが、日が暮れた後は、いつも夜露(よつゆ)にぬれ、表面はうっすらと藻(も)におおわれている。

ソローリと、すり足で桟橋を下っていく。ジリジリと数メートル進み、船までは、あと2メートル以内。その時、ツーと右足が前方に流れ出したと思ったら、もう止められない。出足払いをかけられたように両足の靴底は前を向き、ウォータースライダー状態になった。(続く)

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