2026年8月11日火曜日

紫の怪 ―Mysterious purple

Oct. ’13
昔、大映映画の怪獣でバルゴンというのがいて、真っ暗な夜空に向けて背中のトゲトゲから虹を放つのだった。
総天然色の大スクリーンいっぱいに展開するそのシーンは、画用紙よりも小さい白黒のブラウン管ばかり見ていた私には、それはそれは美しかった。
けれども、その美しさとは裏腹に、虹が到達した先ではあらゆるものが焼き尽くされるという、それはそれはヤバい奴だった。ロックオンするでもなく、行く先不明の美しくてヤバい虹を空にかけるのである。
怪獣の武器と言えば、ターゲット目がけて吐いたり飛ばしたりするのが相場だった中、まるで生きて動く自然災害のようなその生態は衝撃だった。
 
七色の虹とは言うが、その色の配列をすぐに頭の中に描けるだろうか...
人間の目に見える色の範囲を越えたすぐ外側にあるのが、字のごとく赤外線と紫外線なのだから、帯の両縁が赤と紫であることまでは想像がつく。
 
確認してみたところ、上の写真のように弧を描く虹の曲線の外側(天空側)が赤で、内側(地上側)が紫、その間に、橙、黄、緑、青、藍が並んで、大まかに全七色と色別して識別しているようだ。
 
生き物の世界では、名前に紫を含むメンバーが意外と多い。
例えば、日本の国蝶はオオムラサキだし、軍艦巻きの定番と言えばムラサキウニ。
この陸海の2種の生き物の姿、思い浮かべられるだろうか。
残念ながらこれらの写真は撮っていないので、よかったら画像検索していただきたいのですが...

紫っちゃ紫かもしれないけど、並べると、ぜんぜん違う色に見えないですか。
 
「それはシロガシラトビ」「これはセアカゴケグモ」などと説明して言い返されることはまずないが、「あれはムラサキ◯◯」と言うと「どこが紫?」となることがよくある。とりわけ紫に限ってそうなのだ。
 
そんな混迷の色であるにも関わらず(あるからこそと言うべきか)、名前に紫を冠する生き物の多いこと多いこと。英語でも「Purple◯◯」と名付けられた生き物はごまんといる。
そこで今回は、各界からエントリーさせた紫◯◯さんをいくつか紹介し、皆さんのご判断を仰ぎたいという次第です。
 
昨今のスマホ写真などでは過度な加工が横行しているし、名前に含まれる色に引っ張られて加工したんじゃないのと疑ってしまうような画像もネット上では見られるが、ムラサキシキブの実とかムラサキツユクサの花とかなら、紫と名付けられても異論は出なさそうな色味をしている。

けれども、本件を書こうと思ったきっかけとなったシーンが、この一つ前の書き込みの写真選択中にたまたまあったのだ。
それが、2638日にアップした前件の写真の初めから4番目と5番目。
 
まずは、ムラサキタイヨウチョウという鳥がいる。英語名でもPurple Sunbirdだ。 
Purple Sunbird (Nectarina asiatica), Feb. ’98
そして、ムラサキソシンカという花がある。英語の俗名はOrchid Treeだが、言わば戸籍上の本名であるラテン語の学名には、紫である様を意味するpurpureaという名がしっかりと付けられている。
Orchid Tree (Bauhinia purpurea), Oct. ’17
そのムラサキソシンカの花の蜜を舐めにそのムラサキタイヨウチョウがやってきたら、こんな光景になるのである... 
Purple Sunbird on a flower of Orchid Tree, Nov. ’25
このコントラスト...これでいいのか紫界隈。
 
あと、英語にはvioletという言葉もあり、辞書では、すみれ色とか青みがかった紫となっていて、そもそも、花のスミレの英語名も、ずばりVioletだ。花が先なのか色が先なのか...

とにかく紫の定義は、青みと赤みの間で揺れ動いている感がある。
 
そんな中、これはまさに紫色と言ってもいいのではないかと思える水鳥がいる。
英語名でPurple Swamphenで、直訳すると紫の沼の雌鶏となる。
Purple Swamphen (Porphyrio porphyrio), Nov. ’25
これぞ紫!と言いたいところだが、この鳥に限って日本での呼び名は合致してなくて、和名ではセイケイ(青鶏)となっている。
確かに青みであるには間違いなく、紫鶏(シケイ)という呼び名だとあまりにもかわいそう。縁起でもない。
 
このセイケイのボディーカラーの青系グラデーションのどこかに、各自が紫と感じる色が見つかるかもしれないが、それがどのへんの色なのかも人によって微妙に違ってくるかもしれない。
 
とにかく紫あたりの色はややこしい。
いやいや青よりも濃くて…となると、だったら藍色ってなんだ、群青色ってなんだってなる。
いやいやちょっと赤みも入ってて…となると、だったら茄子紺色ってなんだ、そもそも紺色と藍色って何が違うんだ、瑠璃色は?みたいになってくる。
 
セイケイとは逆に、日英とも紫の名で合致しているにも関わらず、その名を教えると「どこが紫?」と必ずと言っていいほど突っ込まれる鳥がいる。
それが、ムラサキサギ、英名でもモロPurple Helonである。学名にもやはりpurpureaが入っており、押しも押されぬ折り紙付きの紫の鳥である。
そのムラサキサギが体の色々なパーツを見せてくれている写真を4点お見せしましょう。
Purple Helon (Ardea purpurea), Mar. ’25
Dec. ’23
いかがでしょうか。
あなたの思う紫色は見つかりましたか?
それともやはり「どこが?」ですか...
これはもう、紫の鷺ならぬ紫の詐欺と呼ぶべきか。
 
最近、野菜の中にも紫の怪現象を見た。
日本にもあるようだが、紫色と言って差し支えなさそうなトウモロコシがあり、ミャンマーでは東のシャン台地で多く作られているのでシャンピャウン(シャンのトウモロコシ)などと呼ばれている。
ちなみに、紫色のビルマ語は「カヤンヤウン」で、直訳すると茄子色となり、このトウモロコシも、「カヤンヤウンのピャウンブー」と言えば通じる。
Purple colored corn, Jul. ’26
ず、おやつとして定番の茹でたものをいただいたのだが、ちょっと黒みがかってはいたが、まあ火を通したのだから少しはくすむだろういう程度の色変だった。
Boiled purple colored corn, Jul. ’26
そしてご飯時、今まで見たことのない緑のペーストが出てきて、これは何だと問うと、あの紫トウモロコシだと言う。まさか?
聞くと、まず生のトウモロコシの粒粒を芯からもぎ取って集め、それを乳鉢式の石臼で粉々にする。それを油で炒めてペーストにすると、なぜか緑色になるのだと言う。
虹の下の縁に位置する紫から一気にど真ん中の緑に色変するのである!
Stir-fried ground purple colored corn, Jul. ’26
残念ながら調理の現場は見られなかったが、緑になることもあればならないこともあると別の人からは聞いた。味付けに加える油以外の何かが作用するのか、一本ごとの質によって違うのか。
それに、紫色なのは粒の表面だけで中身は白いので、少なくとも紫と白は混ざっていることになる。ならば薄くなるだけのはずだが、絵の具の原理で言えば...
今度はぜひ、調理現場に立ち会ってみたい。
 
我々人類はと言うと、大雑把に三色に分類され、色の違いを悪用する悲しい歴史もあったが、そもそも哺乳類では鳥ほど派手なものは多くなく、
結構いるのは地味めのハイイロ◯◯とかで、名前に付く色のバラエティーもそれほど多くない。
中では人の目に近い色覚を持つためか、サルの仲間には色でアピールするものも多く、ベニガオザルとかキンシコウとかシロクロコロブスとかの名前が踊る。
そんな中、やはり紫もいる!
スリランカに住む葉っぱが主食のサルの仲間、カオムラサキラングールだ。
 
残念ながら私はスリランカに行ったことがないので写真もないが、かつて千葉市動物公園と京都市動物園では飼われていたことがあるそうだ。
以下のサイトから生前の姿や剥製が見られる。
https://x.com/ChibaZoo/status/1242743621935181824
https://www.ariescom.jp/entry/purple-faced_langur
https://zoo.city.kyoto.lg.jp/zoo/uploads/image/anon698.pdf
 
いかがでしょうか。これもムラサキウニに近い色かも。
どうやら、ベースは黒なんだけど、わずかでも青みか赤みが差してたら紫と名付けて、ふつうに黒いものや焦げ茶色のものなどと区別させるというのが、濃いほうの紫の条件のように見えてきた。
 
ならば、薄いほう、ピンクっぽいほうの紫の条件はどうなんだろう...それを体現しているような紫界隈の生き物が見つかったなら、またお知らせします。
今のところ、ムラサキソシンカあたりがそっちの極に近いような気がする。
 
とにかく、それぞれの種(しゅ)の名付け親の色彩感覚に、後世の我々は追従し続けざるを得ないということだ。
 
「カオムラサキ」で一つ思い出した。
移動が多い暮らしぶりのため途中で観られなくなると辛いので、連続テレビドラマの初回はなるべく見ないようにしているのだが、去年の秋から半年間、あるドラマにどっぷりハマっていた。
その名は、「仮面の忍者 赤影」。
こちらは、大映と並ぶ時代劇の老舗、東映の製作で、オリジナルは昭和に作られた空想特撮時代劇で、原作の横山光輝(みつてる)さんのマンガ版も同時進行で連載されていた。
 
それが、令和の時代に再び実写で蘇ったのだ。
私は昭和版直撃世代なので、お手並み拝見とばかりに、ちょっと気になって観てみたのだった。
これはオレたちの赤影じゃないと早々に退場したオールドファンもいたようだが、半ば斜に構えて流していたところ、だんだん令和版の新たな魅力に引き込まれ、真正面から観るようになった。
時代劇絶滅寸前にある令和の役者さんたちのがんばりもすばらしく、昭和の時代劇スターにも匹敵する小気味いいみごとな殺陣を毎回見せてくれた。
 
その中に、傀儡甚内(くぐつじんない)という忍者が出てくるのだが、他人の顔を盗む忍法を駆使する最も始末の悪い敵だった。
その忍法顔盗みに使う秘伝の仮面が、最近見た中では、私がイメージする紫の色に限りなく近かったのである。
https://post.tv-asahi.co.jp/post-666339/
 
マンガ版のほうは確認していないが、昭和のテレビ版傀儡甚内は元祖ガングロだった。
主人公は当然、昔も今も赤い仮面。なのになぜ黒から紫に...
あっ、冒頭虹でご説明したように、赤と紫は可視光線の両極に位置する色だ!まさに天と地ではないか!!
それを分かった上で赤の敵を紫にしたのだとしたら、令和版傀儡甚内のデザイナーさんはただ者ではない。
 
これもまた、今この文章を書きつつ気付いたことで、同じスタッフとキャストによる続編を期待する気持ちがますます高まってきた。
来週が待ち遠しくてたまらないなんて思いを味わったのは、何十年ぶりだったもので。
 
ここまで来て、さらに思い出した。私の中で赤影鳥と呼んでいる鳥がいたことを。
その名は、バンケンモドキ!
これまたマンガのキャラのような名前だが、図鑑にも使われるれっきとした標準和名で、熱帯アジアに生息するカッコウ科の鳥の一グループである。
 
名前の由来は、同じカッコウ科の中にバンケンという別のグループがあり、そのバンケンと似て非なるものという意味でモドキなのだが、進化上どっちが先に現れてどっちが後から現れたとかではなく、これまた見つけた人間の都合で生き物の名前は順番に決まっていくものなのだ。
 
注目は、このバンケンモドキの顔である。
私がミャンマーで会って撮れたのは、中でも大型の種類、その名もすさまじき、オニクロバンケンモドキ!そしてその姿が、これだ...
Green-billed Makoha (Phaenicophaeus tristis), Mar. ’20
傀儡甚内の仮面のような顔全体を覆うタイプではなくて、目の周りだけを覆ったみごとな赤影顔ではありませんか!?
体色は、黒というよりは、むしろパステルブルー系の青影風で、長い尾羽は、令和版赤影の束ねた長髪を彷彿とさせ、その先端の紋は白影を偲ばせる。
まさに、赤青白を纏った鳥なのだ。
 
カッコウと言えば、鳥界を震撼させる奇習、托卵を企んでいることで傀儡甚内並に始末の悪い奴として知られているが、さすがは赤影!バンケンモドキはカッコウ科の中でも托卵をやらないそうである(子育てしないカッコウにも罪はないのだが)。
Green-billed Makoha, Feb. ’16
紫の考察に始まり、綴るがままに最後は対岸の色、赤にまで及んでしまったが、色の探求は今後も続けてみたい。
暗黒の宇宙空間において、総天然色に彩られた地球に住んでいる我々は、なんと幸せなことだろうか。
 
なのになのに...人間だけは何をやってんだか。
白い煙の尾を引いて空をかけるミサイルに、赤く燃え上がる炎...
 
空にかかるのは虹だけでいい、空を赤く染めるのは太陽だけでいい(祈)
Dawn in silence, Dec. ’23

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