2014年10月30日木曜日

黄金跳ねる緑の平原 -Green plain where Golden cluster is hopping-

シュエセットーの金色のシカ、ターミンジカ
Thamin(Eld's Deer, Cervus eldi), the golden deer in Shwesettaw Wildlife Sanctuary

地勢(ちせい)の多様(たよう)なミャンマーでは、年間降水量が5千ミリを超す豪雨(ごうう)地帯と5百ミリにも満たない乾燥地帯が、山脈を隔(へだ)てて、ほんの百キロほどで隣(とな)り合っていたりする。

その東南アジアで最も雨の少ないほう、中央乾燥地には独特(どくとく)の生態系(せいたいけい)があり、その象徴(しょうちょう)の一つであるターミンジカのことは、7年前にもここで紹介した。

ターミンジカの名は、ビルマ語名のタミーンから来ており、それぐらいミャンマーを代表する動物で、人々は誇(ほこ)りと親しみをこめてシュエタミーン(黄金のタミーン)とも呼んでいる。
この雨季には、もう一つのタミーンの生息地、シュエセットー野生生物保護区を久しぶりに訪ねた。この地の変遷(へんせん)は17年前から時折(ときおり)見てきたが、2000年代に土地の一部が投資(とうし)業者に買収(ばいしゅう)されたときには、保全を望んでいた者たちは大いに嘆(なげ)いたものだ。これでシュエセットーも終りかと。

その後、その大半を購入(こうにゅう)したのが軍隊で、灌木(かんぼく)の原野(げんや)を開墾(かいこん)して綿畑(わたばたけ)に変えていった。そして、耕うん中、栽培中、休耕(きゅうこう)中と常に数段階の畑が混在(こんざい)する、いわば人手の入った広大な平原が出現することとなった。

そんな状況下(じょうきょうか)、政権とは別の現在の国軍のトップが、タミーンは国の宝、決して撃ってはならぬと、この地の隊に命令を下した。超規律(ちょうきりつ)集団のこの人たちは、あらぬ方向に向かうと、とんでもないことになりそうだが、いい方向に働くと、とんでもなくうまくいくのかもしれない。
昼間ターミンジカが休息するインダイン林(乾性フタバガキ林)
Thamin is taking a rest in INDAING Forest (Deciduous Dipterocarp Forest) in the daytime.

幸(さいわ)いタミーンは綿を好まず他の雑草を中心に食べるので兵士に恨(うら)まれることもなく、結果、夜は平原で好きなだけ食べ、昼は元からあった背後(はいご)の保護区の天然林で休めるという理想的な一大生息地が、偶然にもできあがった。
中央乾燥地は、元々人も多く住んでいた土地だ。もしかするとこの地のタミーンは、かつても耕地(こうち)と森を行き来する、いわゆる里山(さとやま)の動物だったのかもしれない。
夕暮れ時、森から次々に出てくるターミンジカの群れ
Thamin's herds are coming out from the forest one after another at dusk.

軍には不満から感謝まで言いたいことは色々あるし、シカは天敵とのバランスが崩(くず)れれば一気に過密(かみつ)になり、やがて全滅(ぜんめつ)に向かうというリスクも持った動物だ。

その気があったかなかったか、とにもかくにも地元の森林官と兵士のコラボによって奇跡的に再来した絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)の天国。うたかたの夢で終わらぬよう油断(ゆだん)せず見守っていきたい。

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