2012年11月30日金曜日

風をつかまえて -Catch the wind-

愛媛新聞「ぐるっと地球」'12年11月14日原文追補

エヤワディー川中流での旅の最終日、夜行バスに乗るにはまだ早いので、ミンゴン遺跡(いせき)前の中洲(なかす)で待機(たいき)することにした。たまにカワゴンドウが現れるポイントだ。中洲には、乾季の間だけ住み着いている漁師の家族らしき先客(せんきゃく)がいた。

日が傾(かたむ)きかけたころ、番屋(ばんや)から出てきた大人と子供の二組が二隻(にせき)の小舟に分かれて乗り込み、大河(たいが)にこぎ出した。

100メートルは沖に出ただろうか、前方に座る大人がオールを置き、何かごそごそやり始めた。直後、朱色の四角い幕(まく)が灰色の水の上にバッと開いた。

その舟は帆(ほ)を備(そな)えていたのだ。後方に座る子供もこぐのをやめ、オールを斜(なな)めに水に入れたまま保持(ほじ)している。立派(りっぱ)なかじ取り役だ。

派手(はで)な装飾(そうしょく)を施(ほどこ)した観光船がエンジン音を響かせて行き交(か)う中、二隻の帆掛(ほかけ)け舟は、音もなく川面(かわも)をツーッと滑(すべ)って行った。こんなかっこいい船の走るシーン、生まれてこのかた見たことがない。

昨今(さっこん)のミャンマーの経済発展の影響は地方にも及んでいて、エヤワディーを走る小舟もエンジンを備えたものがずいぶん増えた。それでも、その多くは帆も備えていて、特に雨季など、強い風が吹き始めたとみるや、すぐさまエンジンを切って風力(ふうりょく)に切りえる。
雨季の強い風なら、畳半畳分ぐらいの帆でも効果十分
A small sail which its size is even about half of TATAMI mat is effective under the strong wind in the rainy season
 
とかく私たちは途上国(とじょうこく)に対して、困っているのではないかとか何かしてあげねばとか、ついつい優しさからくる上から目線になってしまいそうだが、今の日本が抱(かか)える宿題である再生可能エネルギーや自然との共生といった分野では、彼らのほうが、はるかに先を行っているように感ずることがある。

仕掛(しか)けるだけの交流ではなく、生徒になって学ぶ謙虚(けんきょ)さも持ち合わせていたいものだ。
 

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