ちょっと時間が経(た)ってしまったが、この雨季のメインマラー島訪問でも“アゴ欠け大将”には出会えた。彼の性格もさることながら、やっぱり私との相性(あいしょう)もいいのかもしれない。
思わず「よく見つけたなー」と、もらしたほど、今回は、かなり紛(まぎ)らわしいところにいるのを発見できたのだ。
夕暮れ時、おなじみの約9メートルのエンジンボートで島の水路を巡っていたところ、船の前部にいた私ともう一人は見のがしたが、後部にいた二人が一瞬アゴ欠けを見たという。急いで幅20メートルほどの水路を鋭(するど)くターンして戻(もど)ってみた。
足跡の奥の茂みに…
at the end of tracks under mangrove bushes…
土手(どて)状に高くなった泥(どろ)の岸辺には、はい上がった跡があり、その奥のマングローブ林の中に、御大(おんたい)は、デーンとふせていた。胸から下は茂みの中にかくれている。
それからは、何も恐れないアゴ欠けの真骨頂(しんこっちょう)。けたたましいディーゼルエンジンの音にも微動(びどう)だにしない。その彫刻(ちょうこく)のような無機物(むきぶつ)的たたずまいとは対照(たいしょう)的に、開いたままの目は完全に生きていた。
6月の“アゴ欠け大将”
“Great Chipped Jaw” in June ’12
望遠レンズ越しに見ても息をのむ威圧感(いあつかん)!そうだ、雨季は恋愛(れんあい)の季節。どの成体(せいたい)もテンションが上がり攻撃的になっているはず。
アゴ欠けがいたのは島の東部だが、西部の水路では、ライバルの“鼻白大将”が、自分よりやや小さな個体と闘(たたか)い噛(か)みついているところが、複数の漁師(りょうし)ボランティアに目撃(もくげき)されていた。
さらに、北西の監視詰所(かんしつめしょ)では、ヤンゴンで捕獲(ほかく)され飼育されていた3メートル超のワニが大潮(おおしお)の上げ潮に乗って柵(さく)を乗り越え脱走(だっそう)し、また、職員の豚は別の野生ワニに鼻を食いちぎられた。
飼育ワニは再び確保(かくほ)され、手負いの豚は、そのまま生かすのも忍びないとのことで予定より早く豚肉にしたそうだ。
全島くまなく巡(めぐ)り、アゴ欠け以外にも、2~4メートルクラスのワニを4頭は見たが、今回も“島巡り大将”に会うことはなかった。
in June ’12 in Meinmahla island
改めて現地で確認したところ、5月16日付の書込みで、私は間違った情報を載(の)せていた。ここに訂正(ていせい)いたします。
頭が3フィート(ビルマ語:ペイ)を越えたら精霊(せいれい)ワニになるというのは、町の人の誤(あやま)った情報で、正しくは“3タウン以上”ということだった。タウンというのは、ミャンマー独特(どくとく)の長さの単位で、大人の肘(ひじ)から中指の先までに相当(そうとう)する。
in June ’12 in Meinmahla island
これは、地方でよく使う、あくまで目安(めやす)の単位なので、正式にセンチやインチに換算(かんざん)することはできないが、だいたい1フィート半に相当するとされている。そこで、精霊ワニになる境界(きょうかい)の頭長3タウンとなると、4フィート半、約137センチということになる。
これはもう、いかにアゴ欠けたちが世界最大級だとしても遠く及ばず、島巡りが9メートル級だとして、やっと…、といったところだろう。
in June ’12 in Meinmahla island
で、島巡りに関しては、土地の人々が口々に言っている共通認識(にんしき)がある。「島巡りは海へ出た」と…。海へ出るというと、なんかゴジラを彷彿(ほうふつ)とさせ、最後の死に場を求めているようなイメージも受けるのだが、彼らの感覚は、そうではなかった。
海へ出るのは、まさに精霊になるためなのだそうだ。そして、海で精霊になった島巡りは、人にもワニにも変幻自在(へんげんじざい)になり、陸にも水にも神出鬼没(しんしゅつきぼつ)で、今も人知れず、この世のどこかにいる、ということなのだ。
in June ’12 in Meinmahla island
生きた島巡りとの出会いは、私はもう、ほぼあきらめている。けれども、メートル級の頭蓋骨(ずがいこつ)でも発見されない限り、村の人たちの心の中では、“島巡り大将”は、伝説としていつまでも生き続けるに違いない。
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