旅客船の上から望む朝日
数え切れない支流を吸収しながらミャンマーの国土を千キロ以上下ってきた一本の大河エヤワディーは、海を目前に(と言っても、まだ百キロ以上あるが)枝分かれして広大なデルタを形成する。昨年('09)もご紹介した、サイクロンからの復興に挑(いど)む島々を再び訪ねた。
まずはイリエワニ(Crocodylus porosus)の住むメインマラー島。蘇生(そせい)がかなわなかった枯れ木たちは、立ち尽(つ)くしたまま鳥たちに止まり木や巣穴を提供し、やがて朽(く)ち果て島の土となり、次の世代を育(はぐく)む。
コハゲコウ(Leptoptilos javanicus, メインマラー島)
一方、生き残った木々は順調に枝葉を伸ばしつつあるが、今回は、森の再生の根幹(こんかん)を揺(ゆ)るがす事態(じたい)に遭遇(そうぐう)することとなった。出会った数では、ワニよりも違法伐採者(いほうばっさいしゃ)のほうが多かったのだ。
地元森林局は、特例として保護区内での小規模(しょうきぼ)な漁は認めているが、伐採までは認めていない。付近の住民と動植物との共存は、今後の大きな課題である。
島で最後の夕暮れ時。やっと昨年見た大ワニに再会できた。鏡のように凪(な)いだ薄暗い水面からわずかに浮かぶ石のような頭から尻尾。水際を覆(おお)うマングローブの樹林。そこだけが太古(たいこ)の昔のようだった。
黄昏(たそがれ)のイリエワニ
サイクロンにより流失した砂は、やはり簡単には戻っていなかった。石の多い浜に苦戦して産卵を諦(あきら)め海へ戻るカメが多い中、幸運にも二頭のアオウミガメ(Chelonia mydas)の産卵に立ち会うことができた。
色も形も大きさもピンポン球そっくりだが、殻は柔らかい
母ガメの真後ろで腹ばいになり、深く掘られた穴に落ちてゆく純白の卵を撮っていると、レンズ目がけて突然砂が吹っ飛んできた。卵を産みきった母は、再びシャベルのような四肢(しし)で砂を掻(か)いて穴を埋めるのだ。まさに砂被(すなかぶ)りの特等席だったわけで、カメの強烈なはたき込みでカメラに土が付いた。
ちなみに、それぞれの島名(とうめい)のメインマラーとは「美しい女性」、タミーラとは「美しい娘」という意味で、人にまつわる古事(こじ)に由来(ゆらい)するのだが、そこに住む母ワニは、卵が孵化(ふか)するまで近くに待機(たいき)して巣に水を浴びせたり外敵(がいてき)を撃退したりし、母ガメは、危険を犯(おか)して上陸し、数時間かけ何段階もの手順を経(へ)て産卵する。
産卵を終え、海に戻る母アオウミガメ
器量(きりょう)はともかく彼女らは、は虫類界屈指(くっし)の美しい母性の持ち主であることは間違いない。
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