ミャンマーに「サイカー」という乗り物がある。この名は英語から来ているのだが、子音(しいん)が消える東南アジアの人たちの発音の特徴(とくちょう)を知っていると、ほぼ語源の察しはつく。
語尾に母音(ぼいん)までくっつける日本人だと「ビスケット」「オリンピック」となるところが、ミャンマー英語だと「ビスケッ」「オーランピッ」となるわけだ。
よって、サイカーとはサイドカーがなまったもので、後輪の片側に座席をしつらえた自転車タクシーのことである。
横に張り出した座席は、幅は腰幅ほどだが前後に長く、中央には仕切りがあるため、見知らぬ男女同士でも背中合わせに相乗(あいの)りできるし、さらに荷台の横座りでもよければ、運転手を除いて三人まで乗れる。
他の国の自転車タクシーの多くは、三輪の配置が二等辺三角形で、人力車のように運転手の真後ろに座席が取り付けられており、縦にも横にも大きい割には大人が二人座れるだけだが、サイカーなら車体より長い柱などでも座席からはみ出させて積める。
さらに、座席の代わりに台座を取り付けた荷物専用サイカーでは、空(から)のドラム缶を八個積み上げて山車(だし)のごとく走っている勇姿(ゆうし)すら見たことがある。
大都市ヤンゴンでも、サイカーはバスやタクシーの隙間(すきま)をガンガン走っているが、まして車の少ない田舎町だと、馬車と共に近距離移動のツートップとなっている。
日本から来た中古車が走るヤンゴン市街地
どちらもナンバープレートを持つ公(おおやけ)の交通機関で、決して観光用ではなく、便利で必要だからこそ代々使われてきたものである。何万キロ走ろうが燃料を食うことはなく、無意識のうちに地球の温暖化抑制(よくせい)に貢献(こうけん)してきたわけだ。
車内にあった文字をペイントしたバス。もとの文は何でしょう?(中部、モンユワのターミナル)
昨今(さっこん)のエコブームに乗って、欧米でも自転車での市街地への進入を推進(すいしん)する都市が増えつつあるが、日本では、まだまだ自転車を市街地から追い出そう締(し)め出そうと躍起(やっき)になっているような印象を受ける。
もちろん長時間の放置や歩行者天国での走行などは論外(ろんがい)だが、自転車でやってきて正しく駐輪場(ちゅうりんじょう)に止めてくれる人には、むしろ商店街の特典を提供するぐらいに迎(むか)え入れるほうが、もう一つのエコ、エコノミーの点からも活気(かっき)づくのではないかと思えるのだが…
ハンドルの前にあるのはビルマ数字のナンバープレート
最近、愛媛の松山では、自転車の共同利用や、バスとリレーするエコ通勤などの実験が行われ、宇和島では、ハイカラな自転車タクシーがお目見えしたという報道を拝見(はいけん)した。
物珍しさだけでなく、本当の自転車のよさが再認識できるような優しい町作りのノウハウをドンドン開拓(かいたく)していってほしいものだ。自転車姉妹都市なら、ミャンマーにも、いっぱいあるよー。
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