デルタを行く我らが客船、ソーミャットゥー号
立ち寄る町や村は、予想外の活気に満ちていた。市場や商店には食品も日用品もズラリと並び、精米工場は煙を上げてフル稼働(かどう)、漁師は力強く川面に漕(こ)ぎ出していた。
曲がりなりにも寝床(ねどこ)が二層ある船室
けれども、8ヶ月前のサイクロンの悲劇は決して幻(まぼろし)ではない。出会ったある漁師は、五千人以上が亡くなった島で生き残った数十人のうちの一人だった。亡くなった奥さんが身に着けていた装身具(そうしんぐ)などを売って友人と共同で小船を買い、今は漁をしながら小船の上で暮らしているという。
生き残った者は、前に向かって進んでいる。その生きる姿勢を目の当たりにし、我が身が締まる思いだった。
船上で迎えた夜明け
船を4隻(せき)乗りついで、波の上で過ごすこと32時間。ワニの島を出てから三日目の朝、カメの島に上陸した。
デルタの南西端から十キロ沖合いに浮かぶこのタミーラ島(Thamihla Kyun Wildlife Sanctuary)には、アオウミガメ(Chelonia mydas)とヒメウミガメ(Lepidochelys olivacea)が産卵のために上陸する。
島の番人。魚をつかんで飛ぶ若いシロハラウミワシ(Haliaeetus leucogaster)
日没後、上げ潮に合わせて静かに浜辺を巡回(じゅんかい)し、彼女らの上陸を待つ。世界的に数を減らしているウミガメの卵を回収し、安全確実に孵化(ふか)させて海に放すのだ。
保護官のネイさんによると、周囲5キロ足らずのこの島に、以前は毎晩数頭が上陸していたそうだが、私が滞在した6夜の間、上陸したのは5頭、そのうち2頭は産卵をあきらめて海に戻ってしまった。
産卵のために上陸したアオウミガメ
そのため、カメが上陸しやすい海岸が狭まった上、卵を埋めるための穴を掘っても、砂利が多くて崩れたり岩や木の根につっかえたりして、産卵に失敗するケースが多くなっている。
産卵をあきらめ海に戻るヒメウミガメ
本来ウミガメは、生まれ故郷の島に帰って産卵する。故郷の砂浜を見失った多くの母ガメが、産み落とせない卵を腹に抱(かか)えたまま、大海原をさまよい続けてはいないだろうか。
全地球規模の異常気象の影響は、こんなところにも波及(はきゅう)していた。今後、異常が当たり前になり、ミャンマー南部がサイクロンの常襲(じょうしゅう)地にならぬとも限らない。どうか無事に乗り切ってほしい。人も動物も植物も。
地球環境の正常化を祈りつつ、'09年乾季の旅を終えた。
0 件のコメント:
コメントを投稿