ミャンマー中南部に巨大サイクロン・ナルギスが上陸した5月2日、私は伊予市の実家にいた。最近よく訪ねている山も河も、幸い進路からは、はるかに離れていて被災しなかったのだが、国全体の動向がなかなか伝わってこない状況に気が気ではなくなった私は、虎の子のビザを携えて雨季のヤンゴンに飛んだ。
モンスーンの雨が降るヤンゴン。サイクロンではない
政府も報道も、この非常事態すら政治をめぐる議論に偏らせている観があるが、そのやり取りの陰に隠れて、重大なことが置き去りにされてはいないだろうか。この自然現象が、いかに異常だったか。
今回の災害は、バランスが狂い始めている地球からの警告として、まずは謙虚(けんきょ)に受け止めるべきだと思うのである。ベンガル湾南方に発生するサイクロンは、通常バングラデシュやインド東部に向かって北上し、ミャンマーには西海岸を襲撃することはあっても、それより南に進入したことはなかった。そのことは、樹齢を重ねた木々からも推察できる。
葉が糸のように細長くて一見すると針葉樹のようなモクマオウ(トキワギョリュウ)という木は、沖縄の海岸などでは上部が毎年暴風に折られ、枝振りが暴れていて伸びきらない。一方、ヤンゴンには円錐形にまっすぐ伸びたものが見られ、沖縄のものとはブロッコリーとアスパラガスほどに樹形が違い、一度も暴風にやられていないことが伺(うかが)える。
洋上を東に進路をとった今回も、いずれは、いつものように北に進路を変えるものと、ほとんどの人は信じていた。ナルギスの接近を伝えた天気予報も、風速をモンスーン(季節風)並の20m程度と当初予報しており、暴風と高潮を現実的に想像できる者は、ほとんどいなかったに違いない。
気象局だけは今回は尋常(じんじょう)ではないことを予測できていたらしいのだが、結局、中央政府を経由した発表は、はるかに過小な予報となってしまった。
風速50mをはるかに超える暴風を伴ったナルギスは、これまでの常識を覆(くつがえ)して、とうとう有史以来初めてエヤワディーデルタに上陸し、ヤンゴンに向かって進んだ。暗闇の中、進路に当たる人々は心の準備も不十分なまま、この世の地獄を味わうこととなった。
※ 以下は、サイクロン襲撃から二ヶ月が経ったヤンゴンの様子である。
いたる所で樹木が損傷を受けた
転覆(てんぷく)した浮桟橋(うきさんばし)を曳航(えいこう)する
暴風で傾いたままの僧院の屋根
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