2014年6月7日土曜日

面影動物園、その2. -Unforgettable Zoo, part 2.-

現世きってのマッチョ牛、ガウアとその家畜種ガヤル(写真)
Gaur and its semi-wild type Gayal (Mythun, Bos frontalis in the photo) may be the most macho cattle in this world.

日本の冬、ベンチに尻を着けた瞬間、あまりの冷たさに思わず起立してしまった経験はないだろうか。樹脂(じゅし)やセメントのベンチだ。見た目は木目(もくめ)そっくりに仕上げていても、素材(そざい)の違いは肌が知っている。
土を蹴って闘うオスのホッグジカ
Male Hog Deer (Axis porcinus) are fighting on the soil.

まして動物たちはいつも裸(はだか)。限られた空間で我慢(がまん)してもらっているのだから、せめて自然素材に触れながら日々を送らせてやりたいものだ。耐久性(たいきゅうせい)が短くて維持費(いじひ)はかさむだろうが。
ターミンジカ
Male Thamin (Brow-Antlered Deer or Eld's Deer, Cervus eldi)

ガヤル以外の注目の地元の動物としては、まずターミンジカ(ビルマ語俗名:シュエタミーン)がいる。ミャンマーの乾燥林を代表する希少種(きしょうしゅ)だ。

逆に南部の湿潤(しつじゅん)の森の代表格マレーバクも、なかなか外の放飼場(ほうしじょう)には出てこないものの、いるにはいる。
水鳥のバードケージ
Water bird cage

あと、つい最近まで、知る人ぞ知る珍鳥(ちんちょう)がいた。

内陸の湿原や河口近くのマングローブで、これまで何度もコハゲコウを見てきており、なんでこんな怪物みたいな鳥に“コ(小)”などと名付けるんだと不満に思っていた。が、その不満は、ヤンゴン動物園で納得に変えられた。
コハゲコウ、決して皮膚病に罹っているのではない
Lesser Adjutant (Leptoptilos javanicus). They don’t suffer from any skin disease at all.

水鳥の巨大ケージには、長年君臨(くんりん)する帝王(ていおう)がいたのだ。その名はオオハゲコウ。こんなものが空中を飛べるかと疑(うたが)いたくなるほどでかく、今まで私が野外で見てきたものは、「すみません、小ハゲコウでいいです」と言うしかなかった。
中央に、ありし日のオオハゲコウ
A Greater Adjutant (Leptoptilos dubius) in the center before it died

私などにとっても動物園は、本業の野外観察のイメトレや事後の確認にも役立つ施設なのである。残念ながら、バードケージの会長的存在だった怪鳥は、三十年以上生きた後、ごく最近死んでしまった。
この距離感!?
What a distance!
この二十数年の間に時々訪ねては、たまに出くわした地元の珍しいものとしては、ゴールデンキャット、ウンピョウ、ターキン、5メートル級のキングコブラなどがいた。
は虫類を野外で見れるのは、熱帯の動物園の醍醐味
Watching reptiles outside is one of attractive points of tropical zoos.

90年代前半のヤンゴン動物園には、インドサイとシロサイという現世最大の二種のサイもそれぞれ番(つがい)でいたし、名物のオランウータンや歌にもなったメスゾウなどもいて、なかなか活気(かっき)にあふれていたものだ。
突然人魚が!
Suddenly, a mermaid appears!

そのころにはまだ、トラもれっきとしたミャンマー産のトラがいたが、今ではタイやアフリカから輸入したものしか見られない。
現在、国立動物園は、野生生物を管理する森林局と民間会社が共同で運営しており、資金は潤沢(じゅんたく)になったはずだが、新首都ネピドーに動物園とサファリパークを新設したため、以前より動物がやや分散した感はある。

新首都の二つの園の飼育舎や放飼場は、たっぷりの面積を確保して最新の理論に基づいて設計されているようだが、土着の土や植物を活(い)かすスタイルも、そこかしこに受け継がれている。私には、自国の動物の種類がやや乏(とぼ)しいのが、少し物足りなく感じるが。
ネピドー動物園の地元産フーロックテナガザル
Indigenous ape, Hoolock Gibbon (Hylobates hoolock) in Nay Pyi Taw Zoological Garden

ミャンマー北部のカチン州から来たレッサーパンダにしても、オスとメス一頭ずつが、ネピドーとヤンゴンに別れて飼育されており、今後の計画は聞いてないものの、もったいないし切(せつ)ない話である。

けど、アフリカ産の動物などは、種類も数もかなりいるし、少数だがペンギンまでおり、一頭だけだけどアシカのショーまであるのには驚いた。「もっと地元の動物を…」などと言うのは、私たちよそ者のエゴであって、動物園とは、本来こういうものなのかもしれない。
私自身を振り返っても、時々連れて行ってもらってた松山の道後動物園は、自分と世界を結ぶ貴重な空間、かけ橋だったように思う。トラやワニやゾウに興奮し、その上で、今では目撃情報がほとんど途絶(とだ)えてしまった地元のニホンカワウソまで見られた。

庶民(しょみん)に、特に子どもたちに、めったに見る機会のない外国の動物を披露(ひろう)し、広い世界に向かって目を開(ひら)けてあげる。それこそ、元来(がんらい)動物園が担(にな)ってきた大きな役割の一つなのだと思う。

荒野(こうや)の真っただ中に忽然(こつぜん)と現れた新首都。そこで生まれ育つ新世代の子どもたち。この新しい動物園も、やがて彼らの面影動物園となっていくのかもしれない。

4 件のコメント:

  1. 大西さま

    初めまして、私はNHKの国際放送NHK worldの番組を制作しておりますディレクションズの前田と申します。

    突然メールをお送りします。
    今回ご連絡を差し上げたのは、ブログなどで紹介されているバダウの花の写真を番組でお借りできないかと思った次第です。
    バダウを検索していて、大西さんのブログにたどり着きました。
    使用させて頂きたい番組はKawaii Internationalという女の子のファッション番組です。
    今回、ミャンマーのmntvと共同でファッション番組を制作しておりまして、バダウの花を番組で紹介したいと思います。
    http://www.nhk.or.jp/kawaii-i/
    実は本日編集中でして、本日ご連絡いただければ幸いです。
    急なご連絡、申し訳ございません。
    何卒よろしくお願い致します。

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    1. 大西です。お便りありがとうございます。明日から12日間、地方に出て音信不通になるところでした。ミャンマーはネットが重くて、大容量でお送りするのは難しいのですが、どれぐらいのピクセルでお送りすればいいでしょうか。実は、昨年ネットに載せたパダウの写真は、あまり気に入っておらず、もう少しマシな今年の写真や、ずっと以前の写真にもいいのがあります。どんなシーン、どんなサイズが希望か仰っていただければ、今夜中に対処し、ネットが軽くなる夜中にアップロードして、そのページのアドレスをお知らせします。私のアドレスは、このブログの「著書紹介」ページにちょこっと載せています。ネットの上辺からクリックして開いてください。

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  2. 昔、ヤンゴン外大に留学した友人を訪れた際、
    「明日はクラスのみんなで動物園にいくからって、動物の名前を覚える宿題が出た」というので、その宿題を手伝ったことが有りました。
    でも、その中に「人魚」という言葉もあって
    「動物園に人魚なんかいるのか…?」と訝しんだものでしたが…
    いたんですね、人魚。

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  3. 確か、ビルマ語で人魚は「イェードゥーマ」ですよね。胸まで鱗に覆われているのが、公序良俗を重んじるミャンマーらしいですよね。ちなみに、この人魚さんの後ろ姿は、黒髪が腰のほうまで伸びています。質感は、ゼラチンで固めたシンクロナイズドスイミングの選手のテカテカの髪のようです。やはり水中向きなのかな。

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