2014年2月12日水曜日

幻の大衆麺、その5. -Uncommon ordinary noodle, part 5.-

幻の大衆麺、その5. -Uncommon ordinary noodle, part 5.-
二宮先生には、これら全部を味わっていただく時間はなかったが、食べた中で、うまさ暫定(ざんてい)一位に選ばれたのが、ココナツミルク系の進化型と言ってもいいシュエタウンカウソェだった。

これには私も納得で、15年前の自著(じちょ)でもイチオシしていた。名前の由来にもなっているシュエタウンの町にある本店の名前は「オオサカ」。
オオサカのシュエタウンカウソェ
Shwetaung noodle at OSAKA noodle shop in Shwetaung Town

1970年の大阪万博のビルマ館で出されていたそうで、当時のアルバムも見せてもらったことがある。今から40年以上前に、この麺を食べた日本人がいる!ということになる。

シュエタウンの他、北隣のピーにも南のヤンゴンにも支店があり、「オオサカ」を名乗る限り、味はどこも確かなはずだが、ある旗艦的店舗(きかんてきてんぽ)のボス的店員は、これまで私の人生で出会った、あらゆる店の人の中で、無愛想(ぶあいそう)度、ダントツ一位!他の支店の店員さんは、すごくていねいで腰が低いのに。

その心理状態や背景も気になるところだが、実害があるわけではないので、あまり考えずに喉越(のどご)しに集中しよう。

ルーツと言えるオウンノウッカウソェほどのトロみはないサラッとした汁だが、確かにココナツミルクの香りがする。それに魚の出汁が効(き)いている。と、私は記憶していたのだが、鶏だと言う人も多いので、ヤンゴン支店に確かめに行ってみた。
ヤンゴン支店のシュエタウンカウソェ
Shewtaung noodle at Yangon branch

まず、付き出しの椀の中身は間違いなく魚のすまし汁。本体の鉢(はち)のほうは、具は鶏である。その出汁は…なんとも言えない。鶏から溶け出た肉汁だけかもしれないし、合わせ出汁を取っているのかもしれない。日本のトンコツだかヘンコツだかのラーメン店でも、豚のゲンコツに鶏ガラを…とか合わせ技を使っているようダシ。

いずれにしても、付き出しの魚汁を麺にかけて薄めながら食べるやり方もアリなのは確か。

私は中華麺なら、たいてい断面の丸い麺を好むのだが、シュエタウンに関しては、細めの平麺がスープに絡(から)んで抜群(ばつぐん)に相性がいい。愛知出身の二宮先生には、それも高ポイントだったのかも。

さらにおもしろいのは、揚(あ)げたカリカリ麺を柔らか麺の上にトッピングしている。

レシピを譲(ゆず)ってもらったのか自分の舌で突き止めたのかは不明だが、シュエタウンを出す店はオオサカ以外にもあり、今では人によっては、オオサカよりもうまいと言われる店もある。
ある喫茶店のシュエタウンカウソェ
Shwetaung noodle at some tea shop

さて、そろそろまた何か食べたくなってきたが、残る最大の課題、それは、どこでどう食べるか、かもしれない。

ここに載っている麺のうち、一番安めのものと、日本人が作るヤンゴンの和食屋のラーメンとだと、10倍以上の値段の開きがある。

けれども、短期の滞在で腹を壊(こわ)してる暇(ひま)などないという人に、あえて、屋台で食べてみて、などと野暮(やぼ)なことは言わない。状況しだいでは、10倍払ってでも日本人のラーメンを食べる価値もあるはず。

屋台でも、火の通った麺と汁は食べるが、付き出しの野菜は食べないとか、個人個人で線引きの基準を決めておくのもいいと思う。後ろめたくとも、背に…ではなくて、腹に腹は替えられないか。

なじみの店のナンジーなどは、ぶっとい茶せんのごとき指で、おばさんがかき混ぜ、見事に麺にタレを着させてくれるのだが、南仏(なんふつ)のお嬢さんの足踏みぶどうワインとは、ちょっと事情が違うかも。
豪快に混ぜあげる、おばさんのナンジートゥッ、味は抜群
Nangyi noodle salad, powerfully dressed by an aunty. So delicious!

けれども、汁系のモヒンガーやオウンノゥだと、注文しておいて汁を残すということは、ふつうではありえない。

むしろ、汁をメインに味わう料理と言ってもいいぐらいで、専門の屋台なら、丼が空(から)になったとみるや、すかさず「汁いるか」と尋ねてきて、汁だけ少しおかわりを注いでくれる。

考えてみれば、麺はたいてい製麺所のもので、汁やタレこそが、店ごとに工夫(くふう)を凝(こ)らした自家製なのだから、心意気(こころいき)を察すれば納得である。

けれども、「腹一杯」とおかわりを断ることは失礼ではない。充分満足ということなので。
縁日での麺の出店
Temporary noodle stalls at some pagoda festival

さらにシャンカウソェの店などでは、付き出しの漬物類がドッサリで、もはやカレーの福神(ふくじん)漬けとかカツ丼のタクアンとかの添え物の域を越えている。

全部食べると塩分過多になるだろうとは思いつつも、そこに含まれるビタミン類は、外食中心の生活には捨(す)て難(がた)い。

“出されたものは何でも食らう教”の私としては、結局、全部を麺にぶっかけて、混ぜて食べて、その分、遠回りして歩いて帰るとか階段を昇(のぼ)るとかして、代謝促進(たいしゃそくしん)塩分消費で相殺(そうさい)している…ことにしている。

例外的に観念(かんねん)して残させてもらっているのは、ミャンマーでは許容量(きょようりょう)を超えたトウガラシ、日本では奈良漬けぐらいか。

もし、食べた物の塩気(しおけ)が強かったと感じたなら、その分、他の二食で調整するとか工夫してみてほしい。

麺類は一食分の量を調節(ちょうせつ)しやすいので、誕生会、結婚式、寄進式など、人数未定の催(もよお)しでの振る舞いで出されることもよくある。
クリスマスイベントで出された餡かけソバ
Noodle in sticky soup, served at Christmas event

麺を食すのに意外といい場所が、朝からやってる喫茶店(ティーショップ=ラペイェサイン)だ。

たいてい通りに向かって大きく間口(まぐち)が開いており、甘ーいコーヒーやミルクティーの他、中華まん、揚げパン、インドのプラターやサムサなど、言わば粉(こな)ものの軽食が揃(そろ)っている。

テーブルに着けば、何も言う前から、その時間のお勧めが皿に載って出される。食べた分だけ清算するシステムだ。

三個載せて出されたサムサの皿に最後に一個だけ残っていれば、二個分だけのお金を取って、残った一個は他の皿のと合わせて三個にして、また別の客に出す、というわけだ。

喫茶店のスナック類。食べた分だけ支払う
Snacks are served without your order at tea shops. Then, you are charged for eaten ones only.

そうした喫茶店では、たいてい何種類かの麺もウリにしている。充分に清潔(せいけつ)で値段も手ごろで味もいいし英語メニューもある、けど、まだガイドブックではノーマーク、というチェーン店もあるので、一人一人のお気に入りを探してみるのも楽しいかも。

ちなみに、ここに載せた麺は、撮影後すべて完食している。先方は、これを売って生業(なりわい)にしている、言わば真剣(しんけん)勝負の作品だ。冷やかしてもいいのはそうめんぐらい、ということで。(終)
家から作ってきたものを売り切る最も身軽なモバイルソバ屋
Mobile noodle shop. Homemade menus will be sold out soon.

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