2012年4月14日土曜日

夜空に願いを -Wish upon the night sky-

愛媛新聞「ぐるっと地球そのままクリック!愛媛」'12年3月20日原文追補
ベンガル湾に夜のとばりが下りる
A darkness is veiling the bay of Bengal at Thamihla island

海外で仕事をするなら、まず持っておきたいのが、その国のカレンダーだ。日本にも仏滅(ぶつめつ)や大安(たいあん)つきの暦(こよみ)があるように、特にミャンマーでは、西暦(せいれき)の日にちの横に控(ひか)え目なビルマ数字で太陰暦(たいいんれき)の日にちが書かれているものがいい。

日にちが読めなくても、どこかに赤と青の月の絵が描(か)かれているで、すぐ分かる。満月の日と月の消える日を示しているのだ。
ココヤシの葉に月光が照り返す
Coconut palm leaves are reflecting the moonlight at Meinmahla island

こちらでは、月の満ち欠けに従(したが)った暦が、今でも暮しの中に生きている。特に地方に行くと、西暦での打合わせなどは難しく、「エープリルの十日に」と言っても「そりゃミャンマー暦でいつだ」となり、太陰暦つき暦をくって初めて双方(そうほう)納得(なっとく)となる。

カレンダーにない地方祭の休日なども月の満ち欠けしだいである。太陰暦でも1年は12ヶ月あり、月が完全に消えた翌日の新月から新しい月の前半の一日が始まり、満月の翌日からは後半の一日が始まる。この前後半を合わせた29日か30日間が1ヶ月となる。
月光に浮かぶ漁船
Fishing boats are silhouetted against the moonlight at Thamihla island

生年月日を尋(たず)ねても、「○月の満月から○日目」とは即答(そくとう)できても西暦では答えられないという人が結構(けっこう)いる。とにかく自然相手の仕事には、太陰暦は西暦よりも都合(つごう)がよさそうだ。

例えば、日本でも潮干狩(しおひが)りをするなら砂浜が大きく顔を出す大潮(おおしお)の前後が狙(ねら)い目だが、新月満月の日を知っていれば、干満(かんまん)の大小は自然と分かる。
水平線に漁船の灯りが並ぶ
Lights of fishing boats are standing in a line on the horizon at Thamihla island

ところで、「満天(まんてん)の星に満月」という表現は、ありそうだがありえない。満月が顔を出すと、夜空全体が青みがかって明るくなり、星の輝(かがや)きは弱まる。逆に月のない夜空なら漆黒(しっこく)の天幕(てんまく)が広がり、そこに散らばる星々は、誰かが裏でスイッチでも入れたかのように輝きを増し、肉眼(にくがん)で見える星屑(ほしくず)の数もグンと増える。

人里(ひとざと)離れた森や島では流れ星も頻繁(ひんぱん)に見られ、中には打上げ花火の助走のように明るく滞空(たいくう)時間の長いものもある。文章は無理でも誰かさんの名前を三回唱(とな)えることぐらいはできるかもしれない。ただ、こういう縁起物(えんぎもの)は、どうやら忘れたころにやってくるもののようで、気づいたときには、たいてい消えている。

もし、空の端(はし)のほうで人工衛星(じんこうえいせい)を見つけたなら、願い事どころか、十八番(おはこ)の歌を三回歌っても、まだ夜空の対岸までは達していないだろう。そもそも、鉄の塊(かたまり)にご利益(りやく)があるとは思えないが、一瞬なりともそんな発想がよぎってしまった自分が、ちょっと、みみっちい。
焚き火の照り返しと祠のロウソクの灯
The reflection of a bonfire and candle lights of shrines in the Rakhine Range

「オニシー!あそこ」。夜のマングローブの水路で、なじみの船頭(せんどう)ルイン君が船尾(せんび)から声をかけ、彼方(かなた)を指差した。見ると、森の上に朱色(しゅいろ)の星らしき光が浮かんでいて、ゆっくりと樹林(じゅりん)の中に沈んでいった。

彼によると、いわゆる火の玉で、満月の夜によく出るのだとか。霊的(れいてき)現象なのかプラズマ発光(はっこう)とかの科学的現象(げんしょう)なのかは別として、月でも星でも蛍(ほたる)でもない光が自然界に存在することだけは確かなようだ。
ゾウ使いキャンプの夜明け
A elephant camp at dawn in the Rakhine Range

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