2012年4月8日日曜日

隣の神様たち –Neighboring spirit-

愛媛新聞「ぐるっと地球そのままクリック!愛媛」'12年2月21日原文追補
エヤワディー川を望む精霊たちの祠。水害などから村を守る
Small shrines facing the Ayeyarwady River. They guard a village against flood damages.

ミャンマーには、ナッという存在がある(いる?)。日本では、ナッ神と紹介されることが多いが、天にまします神様とは、かなりイメージが違う。ナッは、もっと身近(みぢか)な存在で、あえて日本語を当てるなら、精霊(せいれい)とか八百万(やおよろず)の神というのが最もしっくりくるかもしれない。

誰でもその名を知っている超メジャーな全国区のナッもいれば、集落の中の大木にも道にも池にも、その土地のナッがおり、それこそ、かまどの神様からトイレの神様までいるようだ。
実際に、雨季には祠の目前まで水が迫る
Actually, river water is getting close to shrines during the rainy season.

ナッを祭(まつ)る祠(ほこら)もあちこちにあり、室内に、いわば神棚(かみだな)を設(しつら)える家庭もあるが、仏壇(ぶつだん)ほど豪華(ごうか)ではない。日本では必ず仏壇より高い位置に神棚を置く、とミャンマーの人に言うと、目を丸くして呆気(あっけ)に取られる。
船の屋根に置かれた精霊へのお供えのココナツとバナナ。旗は'10年まで使われていた旧国旗。
Offering coconuts and bananas to spirit on the boat roof. A flag is the old national flag which used till 2010.

ミャンマーの人たちは姓(せい)を持っておらず、もともと先祖(せんぞ)を崇拝(すうはい)する習慣はない。よく女系(じょけい)家族だと言われるが、ミャンマーでは実(じつ)の娘に老後の面倒(めんどう)などを見てもらう習慣があるため、娘の一人を家に残すことが多い。

そのため、新郎(しんろう)のほうが婿(むこ)入りし、嫁の親と同居(どうきょ)する。結果として、建物としての家を女性が代々引き継(つ)いでいるということであって、家系(かけい)の相続(そうぞく)を意識しているのではなさそうだ。
船室の前面に祭られた仏壇
Buddha's altar setting up at the front side of a boat cabin.

そこで、仏壇に祭っているものはというと、先祖ではなく、お釈迦(しゃか)様で、ミャンマーの仏教徒にとっては、他の宗教にそれぞれおられる絶対無二(ぜったいむに)の神様と同等の存在であるようだ。なので、精霊ナッをお釈迦様以上に祭ることは、ありえないのである。
超豪華!前面ガラス張り、電飾後光の輝く仏壇。とあるホテルのロビーにて。
Gorgeous! The electric halo is blinking and the Buddha's statue is covered with glass. At some hotel lobby.

寺院でもナッの祠でも、その敷地(しきち)に入るときには、敬意(けいい)を表(ひょう)して必ず裸足(はだし)になる。それと同じように、ミャンマーのお宅で休ませてもらったり泊めてもらったりするときには気をつけなければならないことがある。それは、仏壇に対して決して爪先(つまさき)を向けたままにしてはいけない、ということ。
深い森の中のカラオケ店に祭られた仏壇。発電機を回して営業中。
Buddha's altar setting up at the KARAOKE house in the deep forest. Opening by operating the generator.

これは僧侶(そうりょ)に対しても同じで、例えば説法(せっぽう)を聴(き)くときに、あぐらならOKで、いわゆる体育座りは爪先が向くからNGである。我々一般人のほうから僧侶に握手(あくしゅ)の手を差し出すこともNGだが、もし、気さくなお坊(ぼう)さんのほうから手を差し出された場合は、お受けしたほうがいいだろう。
夕暮れ時、ゾウ使い集落を見守る精霊の祠に灯をともす
Lighting candles for the small shrine which guards the elephant handlers' camp at dusk.

神棚もたいてい仏壇と同じ壁面(へきめん)にあるので、自然と爪先は向かないようになる。もし、親や先生と同じ部屋で寝ることになったとしても、目上の人の頭に爪先を向ける位置には床(とこ)を取らないようにする。「足を向けて眠れない」は、単に例えとしてではなく、ミャンマーでは現実の生活の中に礼儀(れいぎ)として残っているのである。
祠の灯りと三日月
The light of the shrine and the crescent.

ちなみにミャンマーでは、目上の人に対峙(たいじ)するときに、よく腕組みをする。授業中、立って発表するときなどもそうだ。パッと見ると、なんだえらそうに、と思ってしまうが、実際のところは、腕を組んで手先を腋(わき)の下にかくすことで相手への敬意を表す、ということのようだ。

“所変われば習慣も変わる…”異文化交流の基本として頭の片隅(かたすみ)に留(とど)めておきたい言葉ですね。
 小島の茂みの中にある祠。土着の精霊を祭る
Some shrine at the small island. It is for deifying the native spirit. At Thamihla island.

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