2010年11月30日火曜日

大ワニの棲む島

愛媛新聞「ぐるっと地球そのままクリック!愛媛」'09年2月28日原文追補

サイクロン直撃から8ヶ月が経ったミャンマー南部エヤワディーデルタに向かった。目指すはメインマラー島自然保護区(Meinmahla Kyun Wildlife Sanctuary)。

サイクロン直撃から8ヶ月たったメインマラー島のマングローブ林

島と言っても土が堆積した広大な中州で、鉄板に敷いた極薄(ごくうす)のステーキのような状態だ。その中を血管のように巡っている大小の水路を小型船で巡航(じゅんこう)し、島の主役、イリエワニ(Crocodylus porosus)の消息を尋ねるつもりだ。

陸地は、汽水に育つ森、マングローブ林に覆(おお)われているが、先のサイクロンで大量の木々が樹冠(じゅかん)を失い、白骨のようになって傾いている。けれども、近づいてよく見てみると、多くの木は生きており、残った枝のあちこちから新しい葉を芽吹かせ、細い枝を伸ばし始めていた。

探索(たんさく)二日目。水面を目でなめながら進むこと数時間、船のエンジン音が岸辺の木々に響くばかりで、ワニの姿も足跡も見られない。張り詰めていた根気もなえかけ、レンズをサギなどにも向け始めていた矢先、船首に居座(いすわ)る保護官のゾーさんが、船尾に向かって手を挙げた。停止の合図だ。

左前方の岸近くでワニの頭が水中に没したという。こうなると、あとは我慢(がまん)比べ。船を静かに対岸に寄せ、脳内の時間感覚を爬虫(はちゅう)類に合わせてリセット。待つこと約15分…


石のような二等辺三角形が音もなく浮上した。まずは石頭を数枚パシャリ。さらに待つ。10分20分…首の突起が少し現れた。パシャリ。

よどんだ空間を切り裂いて、一羽のウが飛んできた。時間感覚のまるっきり違う鳥類の子わっぱは、あたりを跳(は)ね回ったり首をヒョコヒョコしながら泳ぎ回ったりと、せわしない。ふと気付くと、ワニの体は、いつの間にか背中まで水面に出ていた。

結局、大あごの射程(しゃてい)範囲にウが入ることはなかったが、その飛来は彼を活気(かっき)づけたようだ。左前足を水から出し、泥の岸にかけた。右前足、左後足…その歩みは、ゴジラ登場の曲がぴったり合うような重厚さ。


とうとう全身が現れた。デカイ!目測4メートル半。ソーさんも15フィート(457センチ)オーバーと見ている。これでもまだ成長の途中だ。ボテッと腹ばいになった彼は、「オレを見ろ」と言わんばかりに、再び爬虫類時間で、しばらく甲羅(こうら)干しをしてくれた。

その後も、一日一頭ぐらいの頻度(ひんど)で、2~4.5メートルクラスの成体を見ることができた。


夜は、かいちゅう電灯をたずさえて漕(こ)ぎ出し、反射して光るワニの目を探した。樹冠がおおいかぶさる水辺には、30~60センチほどの子ワニがあちこちに見られた。明らかにサイクロン直撃以降に生まれた世代だ。

被災地の確かな再生の兆(きざ)しを実感し、私は次の目的地に向かった。

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