2010年11月10日水曜日

子ゾウの訓練、その後

愛媛新聞「ぐるっと地球そのままクリック!愛媛」'09年1月24日原文追補


一年ぶりにゾウの訓練キャンプを訪ねた。今季訓練を受けるのは、林業に従事するミャンマーのゾウとして動物番組で紹介して母親と共に大勢の日本の方々に見ていただいた雌の子だが、私個人は、それ以上に気になっていたのが、昨年2月23日付本紙('10年9月8日付ブログ)でご紹介した雄の子のその後だ。

使役ゾウになるための訓練は、全身を固定した状態から始まり、徐々に拘束(こうそく)をゆるめつつ、じっくり時間をかけて指示語と動作を教えてゆくのだが、まずは、盲導犬と同じように人と共に歩けるように馴(な)らすことが基本となる。

担当のゾウ使い一人が子ゾウの首にまたがり、あとサポーターの一人が前から手綱で引いて二対一で歩けるぐらいにまで数ヶ月のうちになれれば、上出来である。

雄の子の担当だったウー君が現れた。子ゾウは森のどこかにいるという。もしやコンビ解消か…実は、用のない間、ゾウを森に放して自由にさせておくのは、ミャンマーならではのやりかたなのである。それができているということは、逆に訓練が順調に進んでいるという証拠(しょうこ)だ。

早朝、子ゾウの呼び戻しに私もついていった。ウー君は、地面に残った足跡、草木の食べ跡、糞などをたどり、昨夜の動向を追跡してゆく。まるで森の探偵だ。

歩き始めて丸々3時間、まだ追いつかない。森に放される前、子ゾウの両前脚には歩幅を制限するために手錠のような鎖をかけておくのだが、どうやら、それが外れているようだ。

“カラゥ”。一瞬、木製のベルの音がした。空耳ではない、子ゾウの首にぶら下がっているものだ。やっと追いついた…と思ったら、我々が近づくとベルの音は遠ざかる。

前足が自由になり、ちょっと野性が戻ったか、子ゾウはウー君の命令には応じず、茂みの中を猛烈な速さで逃げる逃げる。とても人では追いつけない。「止まらんか、このゾウ野郎!」最後はウー君の気合がゾウを止めた。



この一年間、彼らは確実に成長していた。けれども、空(から)の籠(かご)を背負えるようになるまででも、ここから、さらに一年はかかるだろう。

一対一で水浴びをする

ところで、前回の滞在時の写真は、再会時のいいお土産になる。昨年の記事も、もちろんウー君に渡した。彼は、じっと見ているまま…

撮られる側の心を読み違えれば写真は暴力にもなる。この森では私のカメラは既に市民権を得ているはず…とは、私の勝手な思い込みなのだろうか…

「今年の写真も新聞に載せていいかい?」私の問いかけに、彼は頬を緩めてうなずいた。

木の皮だけ背負わせ、一対一で歩行する。まだ籠は背負えない

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