2010年6月13日日曜日

2002年 北部の旅‐その2. ('03年春記す、未発表)

私が訪ねた11月は、川の水位はまだ十分に下がってなく、大森林地帯を血管のように巡って流れる渓流の、かなり奥まで小型エンジンボートでさかのぼることができた。

川岸の平坦な場所を選び、竹の骨組みにビニールシートを被せた仮設テントや、ビロウ類のうちわ型の葉で囲んだ“ヤシの葉テント”などを建てて野営し、そこを起点にして、かろうじて林内に残っている獣道のような小道をたどったり、ボートで川沿いを流したりして動物の観察に向かうのだ。

ビロウの葉で建てた“ヤシの葉テント”

中でも、エンジン全開で渓流をさかのぼれるだけさかのぼって、そこからエンジンを止めて流れ下るという方法は、それまで体験したミャンマーでの動物紀行の中でも、最も高い頻度で哺乳類に遭遇できた観察方法だった。

小船を丸太のように流れに任せて静かに下れば、川の両岸に集まる動物たちからして、かなり距離が縮まるまで、そこに人間がいるとは、なかなか気付かないのである。船頭さんは、オールや竹竿で軽く推進力をつけたり、方向を修正したりするだけでいい。

特に、はるかに見上げる川岸の樹冠で寛いでいる樹上生活者、フーロックテナガザル(シロマユテナガザル)は、かなりの確率で目撃でき、加えて、ボウシラングールとアカゲザルにも何度も接近できた。ただし、藪(やぶ)越しなので、音はすれども姿は見えづらい。

他にも、イノシシ、キエリテン、コツメカワウソ、リス類などが見られ、世界的に絶滅が危惧されているハジロモリガモも、多数、番(つがい)で見られた。ちなみに、このカモ。英語名は、White-winged Wood Duck(ホワイト・ウイングド・ウッド・ダック)だが、ミャンマー人の保護官が発音すると、ホヮィウィンウッデッとなる。子音が消え入るビルマ英語に慣れてないと、その解読には考古学者並みのセンスを要するかも。

あと、出会い頭に撮った水鳥、アジアヒレアシの写真は、超貴重なミャンマーでの生息の証拠となった。ピントはイマイチだったが。

ハジロモリガモ(Cairina scutulata

現在、この地域では(でも?)密猟者の侵入が大きな問題となっており、少数の保護官では管理が行き届いておらず、滞在中も、屋根材になるビロウの葉の違法採集者や、魚やカメの密漁者にも遭遇した。

その一方、保護区の北東部には、保護官が何度踏査に挑んでも、いまだ辿り着けないでいる未踏のエリアも残っており、密猟者の侵入も容易には許していないはずだ。

そのため、アジアゾウやガウアやトラの他、ミャンマーではほぼ絶滅したとされているスマトラサイの生存の可能性もまだ否定しきれず、大型動物の生息地として、その潜在力は計り知れないものがある。

また、水中の生態系も豊かで、チンドウィン川沿いの村々の市場には、毎朝、多種多様の魚が水揚げされていた。緩やかな大河の真ん中でプカプカ漂っていた秋田犬ぐらいの大きな死骸は、よくよく見るとスッポンの亡骸だったし、さらに、チンドウィン川最上流部のフーカウン谷と呼ばれる地域では、全長140センチを超えるナマズ類が水揚げされていた。

ダイナマイトを使った漁が横行していないことも、チンドウィン川中流上流部の淡水生態系が豊かであり続けた一因であるだろうが、反面、この流域で盛んに行われている大規模小規模の金の採掘による土壌の侵食と水質の汚染は、今後、生態系へ大きな影響を及ぼす恐れがある。

ルリカワセミ(Alcedo meninting

ちなみに、フーカウン谷も野生生物保護区に指定されており、私にとっては、ミャンマーで唯一トラの生存を確認できた場所である。私がその足跡を見つけたのは、この旅の1年半後のこと、二度目の訪問のときであったのだが、その姿は、いまだ藪の中にある。(続く)

チンドウィン川の源流の一つ、タロン川(Tarong、フーカウン谷の一角)

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