日本の初冬。ミャンマーでは半年間にわたった雨季が終わり、森は、紺色の天空ドームに覆われていた。
森に放牧されているスイギュウの母子
木々は、まだまだ緑をたたえ、雨季の暴力的な面立ちから一変した谷川では、澄みきった水がとうとうと流れ、源流かけ流しの川風呂をいただく我々にも、ちょうどいい湯加減…じゃなくて水加減になっている。ただ、夜ごと寝床に忍び込んでくる10度ぐらいまで下がった外気は、厚い壁に囲われて眠ることに慣れた日本製の体には少々こたえる。
人力による木の伐倒と伐り分けは、地面の柔らかな雨季のうちから始まっており、その跡を追いかけるように始まった丸太を運び出す作業は、しのぎやすいこの季節に佳境に入る。
ミャンマーでは、丸太にする木を収穫する場合、森全体を伐り払うことはせず、使える大木だけを選んで、許可された本数だけ森から伐り出すという方法を基本としてきた。つまり、大部分の立木を残しつつ運び出すことになるため、森を大きく開くことはできない。そこでゾウの出番だ。
もともと起伏の多い密林に住むミャンマーのゾウなら、あえて道を切り開かなくても、密生した木立や岩だらけの渓流を縫って、巨大な丸太を顔面で押し、前足で蹴り、鎖で引っ張ったりしながら運び出せるのである。すべての丸太は、2月中旬までには平坦な河原や丘に集められ、気温が急上昇し始める2月下旬からはゾウたちは夏休みに入る。
ちなみに、大小すべての木を森ごと伐採する皆伐(かいばつ)に対し、必要な大木だけ森から抜き伐るやり方を択伐(たくばつ)というが、森の生態も木の成長速度も理解しないまま収益ばかりを優先する者が上に立ったなら、ゾウを使ったこの伝統林業は、たちまち終わりを告げるかもしれない。そしてそれは、森の消滅の始まりを告げるに違いない。
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