2016年12月25日日曜日

ミャンマー自然探訪、その3. -近場の穴場、水鳥の楽園- ―Exploring Myanmar Nature, Part 3. -A nearby fine spot, Paradise of Water Birds-

「ヤンゴン日本人会報『パダウ』 201612月号」寄稿文原文
クロハラアジサシ
Chlidonias hyubridus, Feb. ’16

路地の角を曲がれば、たむろしている辻犬たち。横切る黒い影は巨大ドブネズミ。歩道に撒かれた豆に群がるドバトに街路樹に吊られた稲穂をつつくスズメたち。そして、ゴミ置場の上空にはイエガラスが舞う。どいつもこいつも、半分人の手に落ちたやつばかり。いったいこの国のどこに純粋な野生動物がいるの?「動物たちを見られるいいところはありませんか?」時々尋ねられる。ヤンゴン日本人学校にも動物好きの子どもはたくさんおり、できれば野外で思う存分観察させてやりたいと願っているお父さんお母さんも多いようだ。今回は、僭越ながら子を持つ親御さんの気持ちになって、おすすめのスポットをご紹介します。

その前に、一つ断っておきたいお茶の間や学校にもまつわるお話から。「動物」というと、四つ足を持つ動き回る生き物、というイメージを持たれている人が結構いるのではないだろうか。生き物には、大きく分けて動物と植物がある。さらに、どっちとも言いがたいものや微生物などが加わり、その位置付けにはまさに微細な説が次々に出てきているのだが、ここでは触れないでおく。この二大メジャー生物界のうち、簡単に言うと、読んで字のごとく自分で動き回れるものが動物だ。なので、鳥も魚も昆虫も貝も、みんなみんな生きているんだ動物なーんーだ~なのだが、なぜか、動物イコール四つ足のイメージが付きまとう。これは、日本独自の文化、お家芸と言ってもいい図鑑、特に学習図鑑の弊害だろうと私は思っている。たいていの動物図鑑には、哺乳類と爬虫類と両生類が載っていて、鳥、魚、昆虫は別々の一巻ずつになっていることが多い。けれども、哺乳、爬虫、両生を一括りにすべき根拠は何もない。動物界をさらに二分すると、背骨を持つ脊椎動物と背骨を持たない無脊椎動物になる。平たく言うと、体の芯に骨があって、その上に肉が被さっているグループと、骨がない代わりに外側が硬い殻で覆われていたり全身骨抜きのフニャフニャだったりするグループだ。そうすると、もちろん鳥類も魚類も、哺乳、爬虫、両生と同じく骨付きグループとなる。けど、なぜ図鑑ではイレギュラーな分冊にするのか。それはもうボリュームの問題、ページ数や価格を揃えたいという大人の事情と思っていい。さらに売上げを考えれば、どうせ一つ独立させるなら、強面揃いの爬虫類よりかは、きれいで取っ付きやすい鳥で一冊設けましょう、儲けましょうってところだろう。外国にはフィールドガイドは色々あっても日本の図鑑ほど学習指向の強いものは少なく、子どもの感性を刺激し続けてきたすばらしい出版文化ではある。けれども、どの一冊を手にしたかが、その後の子どもの進路をも左右するかもと思えば、決して小さくない仕分けだったかもしれない。大人の社会を学習させたかったわけではなかろうが。

我が子に…いや、私自身も新種を発見して学名に自分の名前でも残したいものだと目論んでいる方がおられれば、決して大きな動物には行きませんように。英才教育の片棒を担ぐつもりはないが、スポーツで世界を目指すなら、体重別のある柔道やレスリング、軽いほうが有利な体操、黒人選手の少ない水泳、南国の参加が少ない冬季種目などが狙い目だろうが、動物界で新種発見を狙うなら、何と言っても昆虫だ。理由は単純、種類数が圧倒的に多いから。全動物種の8割は昆虫だと言われるほどなので、ツボに入れば新種発見の連発となり、毎年三千種ぐらいが新種として発表されているという。昆虫でなくとも、言葉は悪いが、小さく下等なものほど新種の発見が多い傾向にある。

この「新種発見!」というのにも二通りあるので、この手の報道は注意して読み解かれますように。一つは、ごく少数の地元の人が知る程度で世界的には知られてなかった未知の動物が発見される場合で、もう一つは、既に誰でも知っている動物だけど体の組織を分析した結果、他の個体群とは違う新種だと分かったという場合である。つまり、発見の場が野外か研究室かの違いだ。大型動物が前者のパターンで見つかることは、もう稀で、和製英語UMA(未確認動物, Unidentified Mysterious Animal)として話題になるもののほとんどは眉唾モノ。私もおったまげた問答無用の大発見といえば、ベトナム、ラオスで見つかったサオラだったが、それももう20年も前のことで、毎年四桁の昆虫とはえらい違いである。一方、生体分析による新種の発表や亜種から種への格上げは、大型動物でも相次いでいる。自然の摂理からすれば、交尾できて代々繁殖可能なら同じ種でいいんじゃないの、と私などは思うのだが、最後の審判を下すのは、今やDNAだ。なので、一種だと思っていたニホンジカが、全国の個体のDNAを分析したところ、実は◯種いた!などという発表もあるかもなのである。そして、そういう新解釈は、環境保護のプロパガンダに利用されたりもする。言わば、誰が見ても分かる肉眼での新発見に、研究者だけが分かる顕微鏡レベルでの新発見が加わり、多くの動物が絶滅に向かっているにも関わらず、数字の上では毎年動物の種類が増えるという矛盾した現象が起こることになる。
モーヨンジー湿地の夜明け
 Dawn at Moeyungyi Wetland, Feb. ’16

なんと前置きが長くなってしまったことか。すみません。ここからは、純粋に動物見たいモードに切り替えます。で、ヤンゴン基点を前提として家族向けに一番おすすめできるスポット。それは、ずばりモーヨンジー湿地野鳥保護区(Moeyungyi Wetland Bird Sanctuary)。そこそこ大きな地図を見ると、バゴーの北北東に台形状の水色が記されているはず。そこだ。ヤンゴン-マンダレーの旧幹線沿いにあり、車の少ない時代は2時間半ぐらいで行けたものだが、今はそれではきかない。バゴーには行かず、中央ハイウェーを通って最初のサービスエリア脇で降り、ペヤージーで旧幹線に合流すれば少しは短縮できるが、それでも片道3時間、ヤンゴンの渋滞にはまれば3時間半は見てたほうがいい。突如現れるピンボンジーの料金所を抜けて5分弱で、右側に目立たない看板の立つ入口がある。そこから、さらに土の道を5分ぐらい走ると湿地手前の駐車場に着く。傍らには、森林局が作った小じんまりした無料の展示館があり、写真や標本が見られる。そこにも記されているが、この保護区は、水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に与えられるラムサール条約の指定をミャンマーで初めて受けている。
スイレンの一種
A kind of Water Lily, Feb. ’16

湿地のほとりまでは、そこから10分程歩く。木製の橋や木立の中の歩道をゆく気持ちのいい散歩道だが、セメントの路上が濡れている時はスリップに注意。私が初めてここを訪ねた1997年には、この木立はほとんどなかった。この保護区では、森林局の承認を受け、民間会社SPAツアーズが観光の手配をしているのだが、初代社長のチョールインさんと発足直後に話し合っていた時、各地で撮ってきた私の写真をめくっていた彼の手が、ある一枚で止まった。そして呟いた。「木がなきゃダメだ」。それは、高い木の樹冠にクロトキの群れが佇んでいる写真だった。それから彼は、客を迎える拠点の周りに木を植えていった。主に植えた樹種は、オーストラリア産のアカシアマンギウム(Acasia mangium)だった。ミャンマーにもアカシアはある。それは、中央乾燥地に多いシャー(アセンヤクノキ、Acasia catechu)で、ゆっくり育って硬木になり、ミャンマーの伝統オーケストラには欠かせない縦笛、ネー(フネー)の胴などにも使われる。なのに、なぜ彼は外国産を選んだのか…。理由は、めっぽう成長が早いからだ。しかもマンギウムは滞水にも強い。

外国の物の導入には抵抗がある人も多いと思う。実は私もそうなのだが、それを言ってては、例えば日本なら、スズカケノキ(プラタナス)やイチョウの街路樹さえ排除しなければならなくなる。外来種はあちこちにあるのだ。導入時には細心の注意を払うべきだが、在来種や人体への害がないと判明したならば、時と場合によっては外来種も有効に活用できる。要は将来のビジョン、どんな森にしたいのかである。かつてそこにあった森を復活させたいが天然更新は待ってられないというのなら在来種の植林となるが、例えば森が失われた原因が住民の生活のための伐採だったとしたら、まずは外来の早成樹種を植えて、そちらを利用してもらいつつ、本丸の在来種の植林地には決して刃を入れさせないという二段構えで臨む手もある。私がアドバイザーを務めますヤンゴン郊外での日緬の市民グループによる森作りも、住民が要望するマンギウムをメインで植え、その周囲には在来種を植えている。伐らずに残す在来種の木々に囲まれて、短期で伐採利用できる生活の森を循環させるというビジョンである。そして、モーヨンジーの拠点には、今は亡きチョールインさんの描いた通り、わずか10数年で高さ10メートルを超える森が連なり、今や多くの鳥たちが羽を休め、サギやウなどのねぐらにもなっている。さらに、在来種のビルマネムノキ(Albizia lebbek)やマウー(Anthocephalus morindaefolius)も、あとを追いかけどんどん成長している。
樹冠で休むサギとウの群れ
A flock of Egrets & Cormorants perching on the crown, Feb. ’16

 やっと、湿地のほとりに着いた。私がここをすすめる大きなポイント。それが施設の充実ぶりである。Moeyungyi Wetlands Resortと言い、開放的な壁なしレストランや宿泊できるバンガローがある。レストランでは中華などを注文でき、冷たい飲物もある。そこから桟橋を渡った先に全戸湿地向きに並んでいるのが舟形バンガローだ。木材と竹を組み合わせた築15年になる作りなので、夜は天井裏をネズミが走ったりもするが、エアコンに洋式トイレ、温水ヒーターも最近取り付けた。何より水上一戸建てなので裏戸を開ければ湿地は目の前、カエルの合唱も心地いい。ただし、水田と隣合せの平地に広がる湿地なので水は土色、オーシャンリゾートのようにパシャパシャやる気にはなれないだろう。一段陸に上がったところに最近できたコンクリートのバンガローは、ボイラーもエアコンも強力で、ヤンゴンのホテルと比べても遜色ない。広いホールもあり、今年はラムサールの国際会議場にもなった。これらの施設でもダメと言うのなら、もう「町へおかえり」と言うしかない。鳥が活発に動くのは朝と夕方なので、できれば一泊したいところだが、宿泊、食事、ボートの料金はSPAにお問い合わせください。オーニシに紹介されたと言っても何の特典もないだろうが、少なくとも、それならばと門前払いを食らうことはないはずですので。
湿地から見たリゾート施設
View of resort area from Wetland side, Feb. ’16

あっ、残りページもあまりない。では、急いで湿地に漕ぎ出そう。屋根なしエンジンボートに乗って、少々水しぶきを浴びながらのウォッチングクルーズだ。一つ注意してほしいことは、船べりには不用意に手を置かないこと。船は、船べりをぶつけながら減速したり方向を変えたりする乗り物である。なので、特に船着き場や他の船に横付けするような時は、指を挟まれないよう必ず引っ込めておくように。ガイドは、外国人に対しては、今見えている鳥の名前を英語で言ってくれるが、ミャンマー流の子音の抜け落ちる発音に慣れておかなければならない。ダッと言ったらダック、グーはグース、イーゲーはイーグル、ストーはストーク(コウノトリ)といった具合。あるそこそこの町のそこそこの中華屋で飲物を尋ねたところ、早口のボーイの返答は「サンキッコーシャ!」???こう聞いて、サンキストとコークとシャーク(エナジードリンクの銘柄)かと聴解できた自分も大したもんだと思った。ビルマ語はいつまで経ってもタドタドだが、コミュニケーション力だけは年なりに上がってるかなと。ちなみに、肝心要のボートは、ボゥぐらいに聞こえる。とにかく一番確実なのは、フィールドガイド本かパンフレットを船にも携帯してもらって、こいつだと挿絵を指差してもらうことだ。いつも事務所にそれらがあるとは限らないので、かなり興味がおありなら自分で買って持っていってもいい。ミャンマーにいる全種を押さえている東南アジアの鳥のガイドは、タイのAsia Booksが出している。また、ビルマ語名を控えてもらって後で私に知らせていただければ、和名をお伝えすることもできますので。
スキハシコウ
Anastomus oscitans, Feb. ’16

国を問わず、まず水辺でお出迎えしてくれるのはたいていサギ類で、ありふれた光景だ。けれどもここでは、日本には少ないムラサキサギも度々見られる。サギのようだけど嘴がやや湾曲していれば、それはクロトキかも。黒いのは頭だけで体は白いが、なぜか和名はこうなっている。ここでは手堅く見れるが日本では見慣れない姿形の鳥と言えば、まずはオーペンビー、ではなくてOpenbill、スキハシコウ。その名の通り、あいた口が塞がらないやつだ。生まれ変わってもこいつにだけはなりたくないと思える気の毒さで、なにしろ、虫が来てもホコリが来ても、一生涯、口を真一文字に結ぶことができないのだから。貝を主に食べるので、中ほどが開いた嘴だと大きめの丸い貝などは挟みやすそうだが、隙間の意味はよく分かっていない。けれども、彼らの立ち姿はすごくいい。鳥は恐竜から進化したとされるが、その無骨な顔つきを見ていると、やっぱりそうかもと思えてくる。次にセイケイ(青鶏)。クイナの仲間で、いるところにはうじゃうじゃいるのでありがたみは薄いが、とにかく色が鮮やか。紫から青や緑に輝く体に紅色の嘴は、いかにも南国の鳥っぽく、旅情を盛り上げてくれる。この湿地で、すごく珍しい鳥の飛来にかち合う確率は低いが、メジャーな水鳥オールスター勢揃いといった感じである。
セイケイ
Porphyrio porphyrio, Feb. ’16

 多くの種類が観察できるのは、北国から水鳥が越冬に来る11月から3月までで、宿泊費もピーク料金となる。雨季には彼らは繁殖地の北へ帰り、年中いるセイケイなども群れを解体して番での繁殖に入るので、水かさの増した湿地は閑散となる。ただ、フィリピンペリカンは、毎年雨季にだけこのあたりに数羽が飛来するので、私はあえて雨季に行くこともある。ただし、高い波しぶきと打ちつける雨粒を合羽に受けながらのクルーズとなるので、決してご家族にはおすすめできない。その分、宿泊費は安いのだが。また、湿地では一年を通して地元の漁師が網や釣竿や罠を使って漁をしており、家畜のアヒルや水牛の群れも日帰りで放飼させている。この放牧の間、水牛からは意外な副収入も得られるのだが、そのお話はまたの機会に。
フィリピンペリカン
Pelecanus philippensis, Aug. ’15
ハス
Lotus, Aug. ’16

ここはシッタン川流域の平地で、元々雨季には滞水する地形だが、中でも大きく貯まる一角に堤防を築いて乾季でも水が残るようにしたのがモーヨンジーだ。言わば、人手が加わった半自然状態の灌漑貯水池で、以前から人々の営みがあった土地である。保護区とは言え、かつて人が住んでいなかったAKの森などとは経緯が違う。町の者にとっては伝統的な漁業や家畜の放し飼いも珍しく、見どころの一つにもなりうるし、ルールを守る住民や観光客の往来は、厳に禁ずべき違法漁法や密猟の抑止力にもなる。
湿地に向かう家畜の水牛
Domestic Buffaloes, Aug. ’15
オウチュウと水牛
Dicrurus macrocercus & Buffalo, Feb.’16

この場所は、住民、観光客、野鳥の三者が共存できるのだという実証の場として、土着の文化・歴史を踏まえた発展を目指していくのが望ましいように思う。そしてその舞台の一員に、動物好きの日本人のみなさんも加わっていただけたならうれしい限りであります。餌をやる逃してやるといった上から目線ではなく、空高く舞う翼を仰ぎ見る下から目線で。
Feb. ’16

2 件のコメント:

  1. ミャンマーにまだいたんですね、ペリカン!!
    今度Alaungdaw Kathapa国立公園にできればいこうと考えております。記事以外でおすすめのピントあれば是非お願いします!!

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  2. Hein Nyoさん、いつも読んでくれて、ありがとうございます。例えばペリカンなら、インドージー湖でたくさん見ましたが、今は治安の問題で、カチンの地方に行くのは難しいかもですね。雨季ならマウービンあたりの水田でオオヅルが見られるかもです。15年9月28日と10月2日の記事も参考にしてください。2月3月にもあちこち回りますので、またご報告します。

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