2011年12月2日金曜日

子ガメの旅立ち -Baby turtles' departure-

愛媛新聞「ぐるっと地球そのままクリック!愛媛」'11年11月29日原文追補

今季のウミガメの島は遠かった。ミャンマー南西端にある漁港からは、わずか20キロ足らずなのだが、なかなか上陸許可が下りない。

雨季のようすを見たくて7月から希望していたのだが、どうやら悪いのは私の態度ではなくて海のtide(潮)のようだ。モンスーンとサイクロンによるシケがなかなか治(おさ)まらないとのこと。

雨季も終盤(しゅうばん)の10月上旬、ヤンゴンからバスと船を乗り継いで、なんとか漁港まではたどり着いた。あとは船長の判断しだい。

出航当日、空の半分は墨(すみ)のような雲が覆(おお)い、強烈な太陽とせめぎあっている。全長7メートル半の漁船は、次々に向かってくる茶色の波の山脈に何度も乗り上げては落ちた。

決して降(お)りられない天然のシーソーにもてあそばれること一時間半。浜辺にせり出したココヤシの本数が数えられるほどにタミーラ島の全容(ぜんよう)が迫ってきた。

いつものように、昭和の怪獣映画の中にタイムスリップしたような感覚が襲(おそ)ってくる。島の北端は、いかにもパラボラアンテナが似合(にあ)いそうな高台だが、現実には、ここはミャンマー。オウギヤシの木立(こだち)に囲まれて立っているのは金色のパゴダ(仏塔:ぶっとう)だ。

上陸後、訪ねてみると、塔を縦(たて)に貫(つらぬ)いて深い亀裂(きれつ)が走っていた。聞くと、二週間ほど前にあった地震によるもので、半年に一度ぐらいは体に感じる地震があるのだとか。
産卵の翌朝、卵を掘り返す
Collecting eggs in the morning after laying.

周囲4キロちょっとの島には、この四月からの半年間で50匹近いアオウミガメの雌が上陸し、54例の産卵が確認されていた。水産局の保護官は、すべての卵を掘り返し、監視詰所(かんしつめしょ)前の柵(さく)の中に埋(う)めなおしている。


なるべく多くの子ガメを安全に孵化(ふか)させ、確実に海へ送り出すためだ。その卵を狙(ねら)う最大の天敵(てんてき)こそ、今のところ人間である。
囲いの中に埋めなおす
Burying the collected eggs inside the enclosure.

この滞在中、二例124匹の子ガメの旅立ちを見届(みとど)けることができた。はたして、このうち何匹が母ガメになって島に戻(もど)ってくるだろうか。戻ってきたとして、はたして私はまだこの世にいるだろうか…
生まれたばかりのアオウミガメの子
A baby of Green Sea Turtle (Chelonia mydas) just after hatching.
 
産卵できるようになるまでには、若くとも40歳までは生きなければならず、そこまで生きられるのは、雄雌あわせても千匹中2匹ぐらいだろうと保護官は言う。

自然や野生動物と向き合うことは決して単純なことではなく、人の社会も含めて広くて長くて深い視野(しや)を持つことが肝心(かんじん)なのだろうと、あらためて思い知らされる。
自ら夜明けの海を目指して進む子ガメたち。孵化後すぐに放流する
Babies are released just after hatching. They are naturally running toward the sea. At dawn.
10月10日、島を去る日。ベンガル湾は青さを取り戻し、照り返す日光は、ダイヤモンドのように輝いていた。 

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