2011年11月4日金曜日

無骨な愛の結晶 -The fruits of rustic love-

愛媛新聞「ぐるっと地球そのままクリック!愛媛」'11年9月27日原文追補
マングローブの地面にて、めったに見ない青いマッドスキッパー(ハゼの仲間、Oxudercinae)
A blue colored Mudskipper rarely can be seen in Mangrove area.

前回は植物の話をしたが、雨季が実(みの)りの季節であることは、動物界も同じ。そりゃそうだ。植物の恵みが動物を育み、そして地球全体の命の環(わ)が繋(つな)がるのだから。

その雨の賜物(たまもの)の一つを見ようと、ミャンマー南部エヤワディーデルタを訪ねた。

雨に憂鬱(ゆううつ)になるのは、もしかしたら人間だけなのかも。特に日陰(ひかげ)でうずくまっているような奴(やつ)らに限って、雨音がにぎわうにつれ嬉々(きき)としてうごめきだす。

この滞在中も、毎日のように…ではなくて毎日必ずヘビを見た。しかも毎回種類が違う。さらに、一晩(ひとばん)脱ぎ捨てていた船頭さんの服には、“おれも忘れてもらっちゃ困る”とばかりに、万年筆(まんねんひつ)ほどもある赤茶色のムカデが張り付いていた。
シャツに張り付いたムカデ
A centipede stuck on a shirt.

そんな雨にうごめく奴らの頂点に立つのがイリエワニだ。超(ちょう)重量級の水辺の怪物は、人とは似ても似つかぬ器量(きりょう)の持ち主だが、動物界全体を見渡すと、意外と縁が近い。

共に、背骨を持って陸上にまで進出した最新グループの末裔(まつえい)で、種の存続(そんぞく)のし方も同様で、雌雄(しゆう)が結ばれることによってのみかなえられる。ただ、人と違って子作りの期間は限定されており、雨季はまさに旬(しゅん)なのだ。

小船は、ヘビのように曲がりくねった水路の奥へ奥へと分け入った。上陸ポイントに到着。ここから先は、茂みの中を人一人通れるほどの隙間(すきま)が抜けているだけ。

ワニ保護に協力する漁師さんが何度も通ってできた跡だが、まだ膝丈(ひざたけ)以上に水が覆(おお)っている。こんなところを歩くのは自殺行為だ。水面下に潜(ひそ)む怪物の餌食(えじき)なってしまう。我々は船上で潮が引くのを待った。
しばしの雨上り、船の屋根で引き潮を待つ
Waiting until tide is ebbing on the roof of the boat while rain stops.

やっと踏み跡が見えてきた。と言っても、完全に水が失せることはなく、地面はぬかるみ、水溜(みずたま)りもあちこちに残っている。先頭の漁師さんは、長い竹やりで水中を突っつきながら進む。

彼ら爬虫類(はちゅうるい)は、瞬発力(しゅんぱつりょく)はあるものの連続攻撃は苦手なはずだ。うまく一発目の攻撃をかわしたなら何とかなる。

眼下(がんか)の敵ばかりも気にしてられない。一日の半分も地面が水に浸(つ)かるマングローブ地帯では、多くの動物が木の上、つまり頭上にもいるのだ。当然毒を持った奴らも。
頭上注意!マングローブ林の樹上にいるクサリヘビ科の毒蛇
Watch your head! A viper on a branch of Mangrove forest (Spot-tailed Pit Viper, Cryptelytrops erythrurus(surmise))

雨の中、ぬかるみを進むこと数十分。まるで舞台のような円形の空き地に、ピッチャーマウンドを何倍も高くしたようなドームが現れた。巣だ。
イリエワニの巣
A nest of Saltwater Crocodile (Crocodylus porosus)

運よく母ワニは留守(るす)だった。潮が満ちれば巣の下半分は水没(すいぼつ)するが、卵はさらに上にあり、安定した温度と湿度に守られている。
別の巣。母親が草を積み上げて作る
Another nest. It is made of grass piled by a mother.

卵でいる期間は約三ヶ月。この冬、晴れて子ワニと対面できることを願いつつ、黒ずんだ愛の舞台(ぶたい)をあとにした。白い牙が襲ってくる前に。
夜の水際で就寝中の雄の成体。前回も会った通称「アゴ欠け大将」
Adult male sleeping on the shore. It is known as “Great chipped Jaw” what I met in the last visit too.

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