2011年10月21日金曜日

雨の中の憂鬱 -Depression in the rain-

愛媛新聞「ぐるっと地球そのままクリック!愛媛」'11年8月20日原文追補
雨季でも土砂降りが続かなければ、渓流は澄んでいる
Stream water is clear even in the rainy season unless a downpour is lasting.
 
今('11年7月時点)、ミャンマーは雨季の真っただ中だ。なじみの森では、入山してから連続五日間、太陽も月も一粒(ひとつぶ)の星さえも顔を出すことはなく、一時間と雨が止んでいることはなかった。通常(つうじょう)のモンスーンに加えてベンガル湾にサイクロンが停滞(ていたい)する場合は、特にこうなる。天気は確実に一日じゅう雨。ただ強く降るか弱く降るかの違いだけだ。

地面から一メートル半ほどの高床(たかゆか)の上でも湿度は常に80%前後あり、厚手の服は何日も乾かず、写真などは、プリント面が粘ってくっつくので、時々シールをはがすように一枚一枚離してやらなければならない。うっかりそのままにしていると、表面も一緒にはがれてしまい、写真の中の顔は白いアバタだらけになってしまう。
土砂降りが続くと一気に増水する。こうなると人もゾウも川を渡ることはできない
Once a downpour is lasting, a water level swells rapidly. Then, any human and elephant cannot cross the stream in this situation.

集落の前を流れる谷川は、見る見るうちにメートル単位で水かさが増し、石を投げれば届きそうな対岸にさえ渡ることができなくなった。増水前に森に返した使役ゾウのうち、対岸に渡ったものはラッキーだ。ゾウ使いが泳ぎ渡れるほど水が引くまでは、何日間も休養日が続くのだから。
やや水が減った日、対岸に渡る進路を検討するゾウ使いたち
On the day when the water level is getting down slightly, elephant handlers are comfirming the route to reach the opposite bank.

雨の季節は病気のリスクも高まる。今のところ腹の調子はいいが、ジトジトに湿った服をまとったまま、シクシク痛む腹を抱えてうずくまることほど辛いことはない。それが、凸凹道を行く夜行バスの中だったりしたら、人生最悪級の悲惨(ひさん)な夜を過ごす羽目(はめ)になってしまう。
下流に流されながら泳ぐ
Swimming across with being flowed lower.

最大の警戒(けいかい)が必要なのは、ハマダラカが媒介(ばいかい)するマラリアだ。医学書にはないセオリーかもしれないが、私の場合、体内に原虫(げんちゅう)が入り込むと、潜伏(せんぷく)期間中に一度必ず独特のいやな感覚がよぎる。数ヵ月後に発症(はっしょう)することもあるので、まだまだ油断はできないが、今のところ大丈夫だ。

こんな調子だから、ミャンマーの森では特に雨季は、自然の顔色をうかがいつつ、流れに任せてできることをボチボチやっていくしかない。
四日ぶりに対岸の森から若いゾウたちを連れ戻した
Young elephants have been taken back from the forest in the opposite side after four days.

♪雨がー小粒(こつぶ)の真珠(しんじゅ)ならー♪…谷川のほとりの集落に閉じ込められていた間、橋幸夫さんの名曲が私の頭の中を何度何度も渦巻(うずま)いたが、目の前に絶え間なく落ちてくるものは大粒のビー玉のようで、一緒に濡(ぬ)れて歩いているのは、いかついゾウ使いたち。ロマンスのかけらもない野暮(やぼ)な世界だが、彼らとの楽しい日々のことは、追々ご紹介していきます。

百数十時間ぶりに湿度計の針が70を切って68%にまで下がったとき、不覚(ふかく)にも、なんとも言えぬ爽快(そうかい)さを感じてしまった。

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