2010年9月21日火曜日

ミャンマーにおけるカワゴンドウと漁師の共生漁‐上編

国連食料農業機関(FAO)専門誌「TIGERPAPER」寄稿 Vol.35:No.2 -Mutualistic Fishing Between Fishermen and Irrawaddy Dolphins in Myanmar- (2008年)原文、写真追加


カワゴンドウ

ミャンマーのエヤワディー(イラワジ)川に由来する名前を持つイルカがいる。カワゴンドウ(イラワジイルカ)である。このイルカは、東南アジアから北部オーストラリアにかけての沿岸に広く分布するとされている。

私の経験では、ミャンマー最南端のコータウンの泥質海岸でカワゴンドウのような形と大きさのイルカを見たが、種類は識別できなかった。そして、エヤワディー川河口近くのデルタのマングローブ域では、夜、イルカの息継ぎの音を聞いた。地域森林官によると、それはカワゴンドウの呼吸音で、あたりには大きな個体群がいるとのことであった。


エヤワディー川は、確かにカワゴンドウのミャンマー最大の生息地である。本流は国土の中央を北から南に流れ、イルカのいくつかの個体群が別々に生息している。

デルタ地域を除くと、二、三の個体群が河口より約900キロ以上から約1,400キロあたりの間に生息している。それは、マンダレーのやや北からバモーあたりまでにあたり、標高約70メートルから約110メートルの間である。


ミャンマー畜産水産省水産局と野生生物保全協会(米)の2004年の目視によるセンサスでは、マンダレーからバモーまでの生息数は、13地域で計72頭と推定されている。そのうち北側のカターからバモーの間が、より大きな生息地である。そして、南側の生息地、ミンゴンからチャウミャウンの間には、約18~20頭生息していると推定されている(アウン・ミョー・チッ、カワゴンドウ計画担当者、野生生物保全協会、2008)。

南側の生息地にいるあるカワゴンドウは、地域の漁師の生活と密接な独特の関係を持っていると言われている。その結びつきが事実なのか否かを確かめるため、私は、雨季の2007年8月27日から9月1日までと、乾季の2008年1月7日から13日まで、ミンゴンからチャウミャウンの間のいくつかの村を訪ね、漁師と行動を共にした。


村の暮らし

そのあたりのエヤワディー川の中州には、多くの定住型の村が拓かれている。村民は、水浴び、洗濯、調理などに川の水を頼り、彼らの生活史は川の水位に影響されている。雨季には土地が狭くなり、乾季には広くなる。ある中州は乾季には陸地と地続きとなる。

ほとんどの村民は、農業か漁業かその両方で生計を立てている。農業は土地が広くなる乾季にのみ行われる。耕作はふつう10月から始まる。耕耘には牛が使われ、牛糞は肥料に使われる。ある者は鶏や豚も自給用に飼っている。

主な作物は、落花生、トウモロコシ、豆類である。それらはふつう3、4月頃に収穫される。若者は親から農具や技術を容易に引き継ぐことができるため、農業をやりたがる傾向がある。

一方、半農半漁の人々も多くいる。彼らは、農業は虫害により作物がほとんど全滅することがあり、不安定で危ういため、漁業が定職で農業は副業だと言う。彼らを漁師と呼んでも差し支えないであろう。ある漁師は、収入の三分の二が漁業からで、三分の一が農業からだという。さらに、専業の漁師も数多くいる。


漁法

あたりの漁師は、主に三種の漁具を使う。

はえ縄…
長い細ヒモに短い釣糸がハリスとして等間隔にぶら下げられ、それぞれの糸の先には釣針が付けられている。そのラインを水中に広げ、両端を川床に固定する。

刺し網…
狭くて長い網を長いヒモに張る。網は、たくさんの鉛の重りで水中で縦に張られている。網の縦幅は約1メートルで、長さはふつう40メートルぐらいだが、80メートルに及ぶものもある。刺し網には、固定するか流すかの二通りの使い方がある。固定する場合は、広げた網を所々竹竿で固定する。竿は川床にしっかり突き立てる。そして、しばらく網を水中に放置しておく。

網を流す場合は、船上から網を徐々に水中に繰り出し、川に広げる。網の端は船上の漁師が握っており、網は船もろとも自然に流される。しばらくして、漁師は網を引き上げる。それを繰り返すのである。この場合は、特に流し網とも呼ぶ。流し網は、上辺に多くの浮きが固定されていて、固定式刺し網よりも重りは少なめである。


投網…
投網の長さは約5.5メートル。つまり、完全に広がると直径は10メートル以上になる。網は、漁師と家族がナイロン糸で編む。編み具も彼らが竹で作る。一つの網を編むのに約2ヶ月かかり、ある漁師は4キロの糸を使うという。網の端には、計約7キロの小さな鉛の重りが付けられる。

従って、中には総重量10キロを越す網もあるだろう。そのため、大人の男の漁師しか扱えない。少年漁師は、十代後半になると網を打つ練習を始める。円形に広げるコツを掴むには、忍耐と努力を要する。


 刺し網は、水位の高い3月から9月頃に行われ、投網は年間を通して行われる。ある漁師はすべての漁法を使い、ある漁師は一つの漁法のみ使う。

漁師はふつう漁船を使う。船は木製で、だいたい長さ4メートル(注1)ぐらいである。船にはスクリューはなく、木製のオールで漕ぐ。漁に出るときは、ふつう二人で一隻の船に乗る。一人は舳先(へさき)近くに陣取り、もう一人は船尾近くに陣取る。

全速で進むときには二人が協力して漕ぎ、漁をするときには一人が漁具を扱い、もう一人が船を操る。女性も船を漕ぎ、漁に参加するが、投網はふつう男が投げる。


*注1: 手漕ぎの小船は、全長が3メートル台後半のものから6メートル近いものまであるが、投網漁を行う場合は、5メートル以上の船で漕ぎ出すことが多い。

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